歴史法学

歴史法学の概念

歴史法学（れきしほうがく）とは、19世紀初頭にドイツを中心に発展した法学の一派で、歴史主義に基づいた研究を大切にする法学のスタイルです。この学派は、法の歴史的背景を重視し、現代の法制度は過去の法体系の流れの中で理解されるべきだという思考を持っています。この考え方は後の法制史の研究に深い影響を与えました。

初期の思想家たち

歴史法学の先駆者に名を刻むフーゴーの存在は重要ですが、特にその流れを完成させたのはサヴィニーとされています。サヴィニーは、ナポレオン時代にフランスから持ち込まれた民法典が自然法の体系を法典という形で表したものであるという見解を否定しました。彼は、法は言語と同様に、人々の共有する想念である「民族精神」（Volksgeist）によって形成されるべきだとしました。つまり、法は各民族の歴史と共に自然に発展し続けるものだと述べたのです。

フランスの法概念への批判

サヴィニーの思想は、フランス法の自然法概念と対立しました。彼は、フランス民法典の廃棄やゲルマン的な中世ローマ法の復興、統一的なゲルマン法典の制定には賛同しませんでした。その代わりに、彼は神聖ローマ帝国という概念を重視し、ゲルマン民族の古代からの法とローマ法との対比を通じて、ローマ法を純粋な形に戻し、そこから近代ドイツに相応しい法体系を構築すべきだと考えました。

サヴィニーは、ゲルマン法の価値を否定し、それに混じった中世ローマ法を「劣った文化の産物」として排除しようとしました。この立場に対し、彼の主張に反対する意見も生まれ、ドイツの法学界はロマニステン（サヴィニー派）とゲルマニステンに分裂しました。後者は、ゲルマン民族の法こそ真の民族精神の表現であり、ローマ法を外来のものであるとして廃棄すべきだと主張しました。

ベルンハルト・ヴィントシャイトと法体系

サヴィニーの弟子であるベルンハルト・ヴィントシャイトは、法体系を一元的にまとめたパンデクテン体系を構築し、1896年に制定されたドイツ民法典で採用されることとなりました。この結果、ドイツの歴史法学派は、法学のアプローチと法制史の研究に分かれることとなり、その後解体しました。

異なる歴史的展開

サヴィニーの民族精神を強調することは、時に偏狭な民族主義につながり、特にナチズムと結びつくなどの問題が生じることがありました。このように、彼の思想は後の歴史の中で複雑な影響を及ぼしました。

ドイツ国外への影響

歴史法学派の影響は、ドイツ国内にとどまらず、国外にも広がりました。特に日本においては、大日本帝国憲法の起草者である井上毅が歴史法学の影響を受けていました。また、イギリスでも、法制史の確立を目指す動きが見られました。このように、歴史法学は国境を越えて、多くの法学者や法制度に影響を与えています。

参考文献

• - 世良晃志郎「歴史法学」（『社会科学大事典 19』鹿島研究所出版会、1974年）
• - 中川徹「歴史法学」（『世界歴史大事典 Encyclopedia Rhetorica 20』教育出版センター、1986年）

歴史法学は法学の発展において重要な位置を占めており、法の成り立ちや背景を理解するための基本的な視点を提供しています。

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