殺人捜査 (映画)

『殺人捜査』(原題:Indagine su un cittadino al di sopra di ogni sospetto)は、1970年、エリオ・ペトリ監督によって世に送り出されたイタリア映画です。ローマの警察組織という権力の舞台を背景に、傲慢で冷酷な殺人課長と、彼の犯した罪、そしてそれを取り巻く人々の姿を鮮やかに描き出しています。日本ではソフト化されていないため、一般に広く知られる機会は限られています。

物語の中心人物は、ローマ市警の殺人課長。辣腕を振るう一方で、権力を笠に着た傲慢な振る舞いを繰り返す男です。彼は愛人であるアグネスと、彼女の若い恋人である学生との関係を知ってしまいます。激しい口論の末、彼はアグネスを殺害してしまいます。驚くべきことに、彼は自ら警察に通報し、犯行現場に証拠となるものを残していきます。まるで、自分の権力を試すかのように、捜査を嘲笑うかのような行動です。

最初に容疑者として逮捕されたのはアグネスの前夫でしたが、捜査は難航します。現場に残された指紋や証拠品は、すべて殺人課長のもの。しかし、誰も彼を疑う者はいません。彼の地位と権力が、捜査の網をすり抜けるための強力な盾となっていたのです。

事件は膠着状態に陥る中、状況を打破するべく、有力な目撃者が現れます。その証言によって、殺人課長はついに犯行を自供します。しかし、警察の上層部は、この事実を隠蔽しようと画策します。権力による事件の隠蔽工作という、さらに暗い影が物語に広がっていきます。

この映画は、エリオ・ペトリ監督の卓越した演出と、エンニオ・モリコーネの重厚な音楽によって、緊張感あふれる世界を作り上げています。その衝撃的なストーリー展開と、権力と正義、人間の深淵を問うテーマは、多くの観客を魅了し、高い評価を得ました。

アカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ、国際映画批評家連盟賞など、数々の権威ある賞を受賞している点からも、その作品性の高さが伺えます。しかし、日本ではソフト化されていないという現状は、この傑作を多くの人に知らしめる機会を奪っていると言えるでしょう。

『殺人捜査』は、単なる犯罪映画の枠を超えた、人間の心理と社会構造を鋭くえぐる作品です。権力の闇、正義の脆さ、そして人間の傲慢さと卑劣さを、鮮烈な映像とスリリングな展開で描き出しています。もし、この映画を鑑賞する機会があれば、その圧倒的な世界観に酔いしれることができるでしょう。一度観たら、忘れられない、忘れさせない、そんな作品です。

もう一度検索