母なる夜

『母なる夜』の概要

カート・ヴォネガットの長編小説『母なる夜』は1961年に発表され、その独特の視点から第二次世界大戦の影響を描いた作品です。本書では、ハワード・W・キャンベル・ジュニアという人物が語り手となり、彼の複雑な人生が展開します。1940年代、ナチスの広報員として情報を流しつつ、同時にアメリカのスパイとしての使命を果たすという二重生活を送るキャンベルは、さまざまな道徳的、心理的葛藤を抱えています。

あらすじ

物語は、1912年にアメリカで生まれたハワード・W・キャンベル・ジュニアの青年時代から始まります。彼は11歳の時に両親の影響でドイツに移住し、やがて劇作家としての道を歩み始めます。1938年にはドイツ人の妻、ヘルガ・ノトと結婚し、幸せに過ごしていましたが、やがて運命は彼を戦争の渦中へと引きずり込みます。

キャンベルはアメリカの特務機関からフランク・ワータネンという謎の男にスカウトされ、ナチスの国際放送員として働くことになります。しかし、後にアメリカ政府はワータネンの存在を否定し、キャンベルの道をより暗くします。彼はナチスの指示に従い、スパイとしてメッセージを放送する中で、彼自身の意識とアイデンティティが揺らいでいく様子が描かれています。

終戦後、キャンベルはニューヨークで孤独な生活を送り、モルヒネに頼り込みながらも、亡き妻への悲しみを抱え続けます。長い期間を経た後、隣人の老画家ジョージ・クラフトと出会い、彼とのチェスを通じて心の拠り所を見つけることになります。

物語は次第に、キャンベルの過去と未来の不安が絡み合って進行します。ある日、彼の前に白人至上主義団体のリーダー、老歯科医ライオネル・ジョーンズが現れ、彼とともに現れた女性が亡き妻の妹、レシ・ノトであることが分かります。この出会いがキャンベルの運命を大きく変えます。

イスラエル政府がキャンベルを逮捕しようとする動きが明らかになった際、キャンベルはジョーンズの隠れ家で身を守ることになります。レシとジョージとともにメキシコシティへ旅する計画が立てられるも、再び現れたワータネンからの情報によって、彼らが実は敵側のスパイである可能性が浮上します。

物語のクライマックスでは、連邦捜査官が彼らの隠れ家に乗り込み、全員が逮捕され、レシは自ら命を絶つという悲劇が訪れます。キャンベルは一時的に釈放されるものの、彼は自ら進んでイスラエルの刑務所へと向かう道を選びます。

獄中でキャンベルは、再びワータネンから手紙を受け取ります。その手紙には、自らの本名がハロルド・J・スパローであること、特務機関員に任命されたことが記されていますが、キャンベルはもはや自らの運命を諦め、「絞首刑」にされることを望むまでに至っています。

まとめ

『母なる夜』は、語り手の信頼性に疑問を投げかける構成と、キャラクター同士の複雑な関係性が魅力の作品です。ヴォネガットは戦争というテーマを巧みに扱い、人間の存在とアイデンティティの脆さを問いかける物語を描いています。

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