母を恋はずや

映画『母を恋はずや』の概要

『母を恋はずや』は、1934年5月に公開された日本映画で、松竹キネマが製作・配給を手がけています。監督は小津安二郎が務めており、本作はモノクロ、サイレント映画として製作されました。全9巻から成り、およそ73分の映像が現存していますが、残念ながら初めと最後の巻は失われているため、不完全な状態での上映となっています。

この映画は裕福な家が没落する様子を描いており、継母と継子の複雑な心理状態がテーマです。小津監督によると、異母兄弟という設定がストーリーを散漫にさせてしまったという反省の言葉も残されています。この作品の撮影中には小津の父が亡くなっており、監督自身にも深い感情が込められたのではないかと考えられます。

あらすじ

映画は、金持ちの梶原家が朝食時にピクニックの計画を立てるシーンから始まります。しかし、二人の息子が小学校に通っている最中に、父親が突然亡くなってしまいます。8年後、梶原家は郊外の借家に移り住み、長男の貞夫は大学生になっています。彼は自分自身が実は父の最初の妻の子であり、今まで実母だと思っていた母・千恵子が実は継母であることを知るのです。この出生の秘密を知った貞夫は、母を責めるのでした。

千恵子は、次男である幸作を含む一家の一員として育てようと努力してきたが、その結果として秘密を打ち明けなかったことを詫びます。しかし、貞夫は納得できず、未解決な葛藤が続きます。父の友人がこの問題に介入し、貞夫は再び母に謝罪します。

ある日、貞夫は友人を連れ戻しにチャブ屋に行く際、家計が厳しいことを知らされます。実は母が次男の幸作に古着を着せようとしていることを知った貞夫は、母が幸作には優しく接する一方で、自分には特別扱いとして気を使っていると感じ、再度母を責めることになります。この時、幸作は何も知らずに母親を泣かせた貞夫を責め立てるが、最後には母同様に貞夫も自身の本心に向き合わなければなりません。

貞夫は家を出てチャブ屋に居場所を求めますが、母・千恵子が心配して訪れます。彼は「一人の方がいい」と言い放ち、母を帰らせるのですが、母の後ろ姿を見送ることで心が動かされます。そんな矢先に掃除婦が部屋にやってきて、心の内を語り合うことで彼は家に帰る決意を固めます。こうして再び家族が和解し、数年後にはさらに小さな家に引っ越すことになりますが、彼らの絆は深まっていたのです。

スタッフとキャスト

本作の監督は小津安二郎で、脚本および原作は小宮周太郎に由来します。構成は野田高梧、撮影は青木勇が担当しました。キャストには母・千恵子を演じた吉川満子、長男・貞夫役の大日方伝、次男・幸作役の三井秀男など、名優たちが揃っています。

映画『母を恋はずや』は、家族間の複雑な感情を飽くなき視点で描写した作品であり、公開当時から多くの観客の心を捉えています。また、2013年にはDVDボックス「小津安二郎 名作セレクションV」に収録され、過去の名作映画として再評価され続けています。

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