気持ち

気持ち（きもち）とは

「気持ち」とは、物事に接した際に感じられる心の状態やあり方を指します。また、身体の状態からくる快適さや不快さといった感覚も含まれます。歴史的には「心持（こころもち）」という言葉が古くから使われていましたが、時代とともに「気持ち」という表現が主流になりました。

心理学においては、気持ちは感情と深く結びついており、感情に伴う意識上の主観的な経験を指す言葉として用いられます。気持ちを客観的に測定する神経生理学的な手法は数多く存在しますが、普遍的に有効であるとは এখনো認められていません。これは、気持ちが個人的、主観的な意識の状態や自我の状態として解釈されることを示唆しています。気持ちは、感覚器官を通じて処理された刺激から生まれるものであり、外部の状況だけでなく、自身の価値判断も反映されます。

言葉の微妙なニュアンス、「少しばかり」の優しさや「僅かに」感じる何か、そうした繊細な心の動きを表す言葉でもあります。

感情との違い

神経科学者のアントニオ・ダマシオは、感情と気持ちを明確に区別しています。「感情」は、心象（メンタルイメージ）とそれに伴う身体的な変化を指し、「気持ち」は、その身体的な変化の知覚を指します。つまり、感情には表情や仕草など第三者から見える要素も含まれますが、気持ちはあくまで主観的かつ個人的なものであると言えます。

内臓との関係

気持ちは、内臓の働きにも影響を与えることが知られています。

腸

感情的な反応が腸の働きに反映されることはよくあり、英語圏ではこれを「gut feeling（腸の感覚）」や「gut reaction（腸の反応）」と呼びます。不安な気持ちで具合が悪くなったり、気持ちが安らぐと体調が良くなったりするのはそのためです。例えば、緊張すると「胃がよじれる」ような感覚を覚えることがあります。脳の働きが腸に影響を与えるように、腸の状態もまた脳に影響を与えることが知られており、この相互関係を「脳腸相関」と呼びます。この考え方は古くから存在し、19世紀の西洋医師の中には、精神疾患の原因を腸に求める者もいました。

心臓

「心」が体のどこにあるのかという問いは、古代から議論されてきました。好きな人といると胸が高鳴り、悲しいことがあると胸が締め付けられるような感覚を覚えるため、「心」は心臓付近にあると考える人も多いでしょう（実際、「心臓」という名称は「心を司る臓器」に由来します）。古代ギリシアのアリストテレスは心臓説を唱え、中世まで人々に影響を与えました。しかし、その後は脳室説が優勢となり、現代では「心」の働きには脳の活動が不可欠であると考えられています。

知覚との関連

他者の感情表現や気持ちを理解することは、私たちの行動を決定する上で重要な役割を果たします。個人の状況への対応は、心情則（feeling rules）に基づいています。例えば、悲劇的な事件が起きた場合、事情を知っている人は同情的な反応を示す一方、事情を知らない人は無関心な反応を示すことがあります。このように、事件に関する知識や情報の有無が、事柄に対する個人の見解や反応を左右することがあります。

心理学教授のティモシー・D・ウィルソンらは、確信を持てない気持ち（feeling of uncertainty）に関して、状況が不確定または不明瞭な時ほど、より多くのお金が投じられることを発見しました。物語の背景や結末を知らないと、人は常に心の中で事件を反芻し、さまざまな感情を抱きます。

人は安心感を得るために、自分の関わる事柄について詳細をすべて知りたいと考える一方、不確実性の中に謎めいた感覚を見出し、より楽しい事柄につながる場合があることをウィルソンは指摘します。実際、分からないという気持ちは、次に何が起こるのかを想像させ、期待感や興奮を生み出すことがあります。

気持ちに関する考察

私たちは、未来に何かが自分にとって望ましい結果や気持ちを与えてくれるのではないかと期待しながら生きています。しかし、自分を幸せや興奮させてくれると思える事柄に熱中しても、一時的なスリルしか得られなかったり、期待とは異なる結果になることもあります。イベントや体験は、自分の気持ちを満たすために行われ、追体験されます。

過去に経験した気持ちは、現在の意思決定や将来の感情に影響を与えることがあります。ギルバートとウィルソンが行った花の購入実験では、過去に花の購入経験がある人の方が、記念日に花を購入することでより幸福を感じ、その幸福感が長く続くことが示されました。

社会学者で作家のアービング・ゴフマンは、人は俳優のように感情表現の方法をコントロールできますが、内なる感情や気持ちを完全に制御することはできないと指摘します。内面の気持ちは、外に見せたい表現のために押し込めることが可能です。ゴフマンは、このような感情的な経験は、個人が意識的かつ積極的に取り組んでいる継続的なものであると説明します。私たちは、内面と外面の気持ち（本音と建前）を使い分けながら社会生活を送っています。

気持ちの負の側面：自傷行為

気持ちは、負の側面も持ち合わせています。人生において大きなストレスや問題を抱えている時、自傷行為に及んでしまう人がいます。気持ちが晴れやかな時は、その状態を終わらせたくないと思う一方、気持ちが落ち込んでいる時は、その感情を消し去りたいと考えます。自分自身に危害や痛みを加えることは、現実から逃避するための手段として用いられることがあります。自傷行為を行う人は、その痛みが現実の問題ほど悪いものではないと考え、別の感覚を求めてしまうのです。また、自傷行為は、自分自身を罰するために行われることもあります（例えば、些細なミスをした際に、自分を責めるように頭を叩くなど）。

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