気象庁マグニチュード

気象庁 マグニチュード（Mj）とは

気象庁マグニチュード（Mj）は、日本の気象庁が地震のエネルギー規模を表すために用いる指標です。日本国内では単に「マグニチュード（M）」と表現される場合、この気象庁マグニチュードを指すことが一般的です。2003年以前のデータについても一貫した方法で決定されており、モーメントマグニチュードとも整合性が取れるように調整されています。

国際的にはマグニチュードの統一規格は存在しませんが、気象庁マグニチュードは他国の指標と概ね同等の値を示します。ただし、マグニチュード8を超える巨大地震では過小評価される傾向があるため、気象庁は公式発表においてモーメントマグニチュードも併記しています。なお、気象庁が発表する地震に関する指標には、震度を表す「気象庁震度階級」もあります。

歴史

気象庁マグニチュードは、1920年代から気象庁が記録してきた地震のエネルギー量を表す指標として利用されてきました。1970年代後半には、高感度地震計の導入に伴い、小規模地震のマグニチュードを地面の揺れの速度から測定する「速度マグニチュード」が導入されました。しかし、導入当初はデータの蓄積不足から精度が低かったため、2000年代初頭にデータの蓄積が進んだこと、測定方法の切り替えにおける誤差、モーメントマグニチュードとの差異などを考慮して、気象庁マグニチュードの値が見直されました。2001年4月23日には一部の地震のマグニチュードが更新され、2003年9月25日には計算方法が改定されました。

計測方法

気象庁マグニチュードは、地震計で観測される地震波の速度または変位から計算されます。小規模地震では、高周波成分が強調されノイズの影響を受けにくい速度マグニチュードが用いられます。一方、中規模以上の地震では、低周波成分が強調され、飽和しにくい変位マグニチュードが用いられます。一般的に、マグニチュード3程度を境に測定方法が切り替えられますが、それぞれの計算式は、切り替えによる不連続性が生じないように設計されています。

気象庁マグニチュードは、情報の入手源や計測時間によって、速報値、暫定値、公式記録の3段階で報告されます。

速報値: 地震発生直後の緊急地震速報で発表される、限られた観測点からの表面波データに基づいたマグニチュード。
暫定値: 地震発生翌日に発表される、より多くの観測点データに基づいたマグニチュード。速報値より精度が高い。
公式記録: 地震観測データを精査した上で、後日発表されるマグニチュード。気象庁の公式記録として残る。

計算方法

2003年9月24日以前

2003年9月24日までは、以下の式を用いて変位マグニチュードと速度マグニチュードを組み合わせて計算していました。

変位計（深さ60km以下）の場合:
\( M_j = \log A + 1.73\log \Delta - 0.83 \)
（Aは周期5秒以下の最大振幅）
変位計（深さ60km以上）の場合:
\( M_j = \log A + K(\Delta, h) \)
（K（Δ,h）は表による）
速度計の場合:
\( M_j = \log A_Z + 1.64\log \Delta + \alpha \)
（AZは最大振幅、αは地震計特性補正項）

2003年9月25日以降

2003年9月25日以降は、変位マグニチュードがモーメントマグニチュードと系統的にずれることが判明したため、差異を小さくするよう計算方法が改訂されました。過去の地震についてもマグニチュードが見直されています。

変位によるマグニチュード:
\( M_d = \frac{1}{2} \times \log(A_n^2 + A_e^2) + \beta_d(\Delta, H) + C_d \)
（An, Aeの単位は10-6m）
ここで、βdは震央距離と震源深度の関数（距離減衰項）で、Hが小さい場合は坪井の式に整合します。Cdは補正係数です。

速度振幅によるマグニチュード:
\( M_v = \alpha \times \log(A_z) + \beta_v(\Delta, H) + C_v \)
（Azの単位は10-5m/s）
ここで、βvはMdと連続しながら、深さ700km、震央距離2000kmまでを定義した距離減衰項です。Cvは補正係数です。

特性

気象庁マグニチュードは、変位マグニチュードと速度マグニチュードという2つの測定方法を用いていますが、いずれも地震波を観測するため、表面波マグニチュードや実体波マグニチュードと似た特性を持っています。地震波の観測データから算出されるため、地震モーメントを使用するモーメントマグニチュードに比べて速報性が高いという利点があります。しかし、地盤によるエネルギー吸収の影響で、マグニチュードが飽和する可能性があり、マグニチュード8程度を超えるとモーメントマグニチュードよりも小さく算出される傾向があります。逆に、マグニチュード7以下の地震では、モーメントマグニチュードよりも大きく算出される傾向があります。

報告

気象庁は、1920年代以降の計測データが残っている地震について、気象庁マグニチュード（M）を計測し公表しています。2010年以降のモーメントマグニチュードが6.5以上の地震については、気象庁マグニチュード（M）とモーメントマグニチュード（Mw）の両方を公表しています。ただし、緊急地震速報では、例外的にモーメントマグニチュードをマグニチュード（M）として発表します。この際、表面波のS波から気象庁マグニチュードを計測し、それをモーメントマグニチュードに変換した推定値を使用しています。変換式については議論が続いていますが、速報性が求められる状況から、一次式による変換を採用しています。

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震（東日本大震災）では、発生直後の速報値はM7.9、同日16時に発表された暫定値はM8.4、モーメントマグニチュードはMw9.0と公式発表されています。

外部リンク

* 気象庁のマグニチュード改訂（2003年）

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