水井康雄

水井康雄：国際的に活躍した日本の彫刻家

水井康雄（1925-2008）は、パリを拠点に活躍した、国際的に知られる日本の石の彫刻家です。彼の作品は主に抽象的な形態を追求しており、特に公共空間に設置される大規模な彫刻を得意としていました。戦後の日本において機械工学を志した経歴を持つ彼は、その後芸術に転身、フランスへと渡り、その独特の芸術観と卓越した技術で、日本とフランス、そして世界の芸術界に大きな足跡を残しました。

戦前・戦中・そして芸術への転身

京都市に生まれた水井は、幼少期から絵画に才能を示し、デッサンを得意としていました。将来は日本の機械工業の発展に貢献したいという思いから、神戸工業専門学校（現・神戸大学工学部）機械学科に入学します。第二次世界大戦中は川崎車両（現・川崎重工業車両カンパニー）に学徒動員され、鋳造技術を学びました。戦後、明石の川崎航空機で働きながら、戦争のない平和な世界と、芸術の未開拓な世界への憧れを抱き始めます。そして、東京芸術大学彫刻学科への入学を決意。彫刻家への道を歩み始めるきっかけの一つとして、彼は工業専門学校の卒業論文で「美術鋳造 ― 大仏の鋳造 ― 」を主題に研究したことを挙げています。この経験が、後に彼の大規模な彫刻制作へと繋がる伏線となりました。

フランスでの活動と1%アート

1953年、東京芸術大学彫刻学科卒業と同時に、フランス政府給費生としてパリへ留学。以後、83歳で亡くなるまでフランスで制作を続けました。パリ国立美術学校で研鑽を積み、彫刻家アペル・レ・フェノザの助手として働く中で、粘土の小品制作を通して創作力を磨いていきます。この経験は、後のシンポジウムや大規模な公共彫刻制作の原動力となったと、水井自身は語っています。

フランスには、公共建築物の建築費の1％を芸術作品に充てるという法律がありました。水井は1968年から1982年にかけて、この「1％アート」制度を活用し、フランス全土で30点以上の石彫作品を制作しました。彼の作品は、素材や技法、そしてそのコンセプトにおいて、常に新しい挑戦と探求に満ち溢れていました。

国際彫刻シンポジウムへの参加と国際的な評価

水井は、世界各地で開催された多くの国際彫刻シンポジウムにも積極的に参加しました。1960年のオーストリアでのシンポジウムでは、初めて4メートルもの大理石を彫刻したことで、石の魅力に深く取り憑かれたと語っています。西ベルリンのシンポジウムでは「東に壁を、西に彫刻を作る」というテーマのもと制作された作品「愛の鍵」は、ドイツ批評家賞を受賞するなど、高い評価を受けました。

これらのシンポジウムでの経験は、水井の彫刻家としての技術と表現力を飛躍的に向上させ、彼を国際的な彫刻家としての地位に押し上げました。

オリンピックと代表的な作品

1964年の東京オリンピックと1968年のグルノーブルオリンピックでは、水井はそれぞれ国立代々木競技場とグルノーブルオリンピック選手村に大規模な彫刻作品を制作しました。「余韻の化石」は、丹下健三の設計による国立代々木競技場の回廊を飾る全長93メートルにも及ぶ巨大な壁面レリーフです。408個の御影石のブロックから構成され、その総重量は160トンにも達します。一方「マクロコズムとミクロコズム」は、グルノーブルオリンピック選手村の教会への参道に設置された壁面レリーフで、最大と最小の世界を対比的に表現しています。これらの作品は、水井の代表作として、現在も人々の目を楽しませています。

メタグラフィーと独自の表現

水井は「メタグラフィー」と呼ばれる独自の絵画技法も開発しました。これは、紙や物質の間に絵の具を圧着することで、予想外の自然現象のような模様を生み出す技法です。この技法は、偶然性を制御し、芸術表現に活かす水井の探求心と技術力の高さを示しています。

日本とフランス、そして自然への深い関わり

水井は、日本とフランスの文化を深く理解し、両者の融合を目指した作品制作を続けました。「斜陰陽」シリーズは、日本の那智の滝とフランスのラコストの泉を繋ぐ、水の循環という自然の摂理をテーマに制作された作品です。40点にも及ぶこのシリーズは、水井の半生をかけた探求の結晶と言えます。

晩年と没後

晩年は、フランスのプロヴァンス地方ラコストにアトリエを構え、創作活動を続けました。2008年、膵臓癌のため83歳で亡くなりました。彼の死後も、多くの回顧展が開かれ、その作品は世界中で高く評価されています。水井康雄の芸術は、技術と精神性の融合、そして東西文化の調和という、彼の生涯にわたる探求の軌跡を物語っています。彼の作品は、今もなお、多くの人々に深い感動を与え続けています。

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