水戸市中央ビル火災

1970年（昭和45年）12月26日の昼下がり、茨城県水戸市泉町に建つ複合ビル「水戸市中央ビル」で大規模な火災が発生しました。鉄筋コンクリート造り、地下2階・地上8階建て、延床面積12,112平方メートルのこのビルは、百貨店や飲食店、銀行、事務所、結婚式場などが入居する賑わいのある建物でした。この火災により2名の尊い命が失われ、18名が負傷するなど、大きな被害をもたらしました。

火の手が上がったのは同日午後2時30分頃のことです。ビル地下1階にある飲食店厨房の排気ダクトから火が出ました。最初に異常に気づいたのはこの飲食店の従業員でした。彼は直ちに周囲へ知らせ、初期消火を試みたものの、炎の勢いは強く効果は得られませんでした。火災の発見・通報はやや遅れました。午後2時46分頃、遠くの望楼勤務員が煙を見て火災を認識。これを受けてか、中央ビルの受付係が消防に通報しました。

通報がなされた時点ですでに火勢は拡大しており、建物内部を急速に燃え広がりました。炎は階段や吹き抜け、パイプシャフトといった垂直方向の空間、そして売場フロアを通じて、瞬く間に上の階へと延焼。最終的に最上階まで到達し、ビル全体が激しく燃えました。火災発生から約8時間後の午後10時20分になってようやく鎮火に至りました。幸いなことに、1階に入居していた銀行部分は、他のフロアと防火区画が完全に遮断されていたため、延焼を免れることができました。

火災発生時、ビル内には約1,110人がいたとみられます。多くの人々が自力での避難や消防隊による救助活動により無事に脱出できましたが、この火災で18人が負傷しました。そして最も悲劇的なのは、2名の死者が出たことです。亡くなったのは地下2階の従業員控室にいた飲食店従業員2名（32歳男性、18歳女性）でした。彼らは逃げ遅れたか、煙に巻かれたものと思われます。

これほどの大規模な火災、特に全館にわたる延焼と人的被害が発生した最大の要因は、建物の防火管理体制の極めて杜撰な状態にあったことでした。このビルには防火管理者が全く置かれておらず、複数のテナントが入居する雑居ビルであるにもかかわらず、共同での防火管理体制も確立されていませんでした。さらに、火災の早期発見・避難誘導に不可欠な自動火災報知設備の音響装置はなぜか停止されており、火災警報ベルが鳴りませんでした。階段部分に設置されているはずの防火シャッターも開け放たれており、火炎や煙が階層間を遮断されることなく自由に移動できる状態でした。防火区画についても、水平・垂直方向ともに不完全な箇所が多く存在し、これが火災がビル全体へ短時間で広がることを許容してしまったのです。これらの複合的な要因が重なり、小さな出火が取り返しのつかない大惨事へと発展したのでした。

水戸市中央ビル火災は、雑居ビルにおける防火管理の重要性を改めて浮き彫りにした事例となりました。適切な防火管理者や共同防火体制の不在、消防設備の不備、不完全な防火区画が重なった結果、この悲劇が起きたのです。複合用途建築物における防火安全対策の徹底がいかに重要であるかを強く示唆しています。

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