氷コップ

氷コップ：大正ロマンを映す、かき氷の器

はじめに

氷コップとは、主に戦前の日本で用いられた、かき氷などの氷菓を味わうためのガラス器です。明治中期以降に誕生し、昭和初期までに独自の進化を遂げました。高度経済成長期以降は、洋風の碗型グラスが主流となり、氷コップは骨董品としての価値を持つようになりました。しかし、かき氷の器として現在も使われるなど、その歴史と文化的な意義は深く、現代にも受け継がれています。

氷コップの特徴

素材と製法

氷コップの素材は、主にソーダ石灰ガラスです。透明なガラスのほか、ウランガラスなど様々な色ガラスが用いられ、紫外線に当てると蛍光を発する種類も見られます。製法は、宙吹き、型吹き、プレスなど多様な手法が用いられ、カップと脚の部分で異なる製法を組み合わせたものも存在しました。

形状

形状は、氷を入れるカップ部分と、それを支えるステムとフットから構成されます。一般的には、なつめ型、碗型、ラッパ型、リン型などに分類され、サイズはおおよそ共通です。蜜豆鉢なども広義には氷コップに含まれる場合があります。昭和初期の佐々木硝子の型録では、ステムとフットが付いたもののみを「氷コップ」と定義していました。

文様

氷コップの意匠は多様性に富んでおり、特に手吹きガラスでは、パーツごとに異なる色ガラスを使用したり、カップ部分に様々な文様を施していました。文様の表現技法には、あぶり出し、暈し、掻き揚げ、吹雪、千筋巻き、象嵌、飛線、色被せなどがあり、これらが単独もしくは組み合わせて用いられました。型吹きやプレス製法では、レリーフによる文様が主流でした。

オパルセントガラスを用いたあぶり出し技法では、市松模様、水玉模様、七宝繋ぎなど、伝統的な和の文様が多く用いられました。蝶と菖蒲、桜花、波千鳥といった具象的な模様も見られます。

氷コップの歴史

氷コップの歴史は、製氷技術、ガラス製造技術、食文化、そしてデザインの流行と深く関わっています。

明治時代

明治初期には、氷水には汎用のガラス器が使われていましたが、明治中期以降、西洋のシャーベットグラスを模倣した氷菓子専用のガラス器が作られるようになりました。明治末期には製氷技術の発達により、かき氷が普及し、脚付きコップから発展したなつめ型やリン型、碗型の氷コップが登場しました。

大正時代

大正時代には、都市部を中心に氷水店などで氷コップが広く使われるようになり、ウランガラスなど様々な色ガラスを用いた、鮮やかな色彩の氷コップが作られました。オパールセントガラスによるあぶり出し技法や、他のガラス技法を組み合わせた文様も登場しました。プレス製法の普及により、氷コップの製造コストも低下していきました。佐々木硝子の英文カタログにはプレス製のアイスカップが掲載されていますが、あぶり出しなどの文様を施した手吹きガラスの氷コップは掲載されておらず、国内需要向けであったと考えられます。

昭和時代

昭和初期にはエナメルガラスによる黒足のグラスが流行し、氷コップにも取り入れられました。戦後には、量産性の高いプレス製法やエナメルプリントが主流となり、手吹きガラスの氷コップは姿を消しつつありました。しかし、近年になって一部のガラス工房やガラス会社が復刻品を製造するなど、その技術と文化は現代に受け継がれています。

氷コップのメーカー

戦前の氷コップメーカーとしては、佐々木硝子（現・東洋佐々木ガラス）などが知られていますが、無数のメーカーや問屋が存在していたと考えられます。東京の宮崎硝子は、早くからあぶり出し技法を用いていたメーカーとして知られています。現在では、東洋佐々木ガラスのほか、廣田硝子などが氷コップを製造・販売しています。

研究と書籍

学術的な研究は少ないですが、高橋岳志氏の『氷コップの夢世界』など、氷コップを紹介する書籍も存在します。

まとめ

氷コップは、単なる食器ではなく、日本の近代化、食文化、ガラス工芸技術を反映した、歴史と文化を凝縮した工芸品です。その美しいデザインと多様な技法は、大正ロマンを象徴する存在であり、現代においても収集家の間で高い人気を誇っています。 今後の研究により、さらにその魅力が明らかになることが期待されます。

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