永瀬清子

日本の詩人、永瀬清子は、1906年（明治39年）2月17日に現在の岡山県赤磐市で生まれました。95歳となる誕生日の1995年2月17日に亡くなるまで、約90年の生涯を詩と共に歩みました。幼少期を石川県金沢市で過ごした後、愛知県の愛知県立第一高等女学校で学びました。本名は永瀬清です。

女学校時代から詩作を始め、詩人の佐藤惣之助に師事し、詩誌『詩之家』の同人として活動を開始しました。1930年には初めての詩集となる『グレンデルの母親』を刊行し、詩壇に登場します。

1940年に発表した詩集『諸国の天女』は、詩人としての地位を確立する代表作となりました。この詩集に序文を寄せた高村光太郎とは、永瀬が深く敬愛した宮沢賢治の追悼会で出会ったことが縁でした。『諸国の天女』は山内義雄や宮本百合子といった当時の著名な批評家や文学者からも高い評価を受け、女性詩人の第一人者としての地歩を固めました。

戦後、1945年には故郷である岡山県へ戻り、以後、農業に携わりながら詩作を続けるという独自のスタイルを貫きました。郷里での活動は実を結び、1949年には栄えある第一回岡山県文化賞を受賞しています。1952年には自らの詩誌『黄薔薇』を創刊し、詩壇の一翼を担いました。

国際的な視野も持ち、1955年にはニューデリーで開催されたアジア諸国民会議に出席し、帰路には中華人民共和国を視察するなど、旺盛な活動を展開しました。

晩年まで創作意欲は衰えず、1987年に刊行した詩集『あけがたにくる人よ』により、地球賞と現代詩女流賞をダブル受賞し、改めてその存在感を示しました。95歳の誕生日を迎えたまさにその日、1995年2月17日に脳梗塞のため岡山済生会総合病院で亡くなりました。その命日は、永瀬の詩にちなんで「紅梅忌」と呼ばれ、多くの人々に偲ばれています。

永瀬清子は、詩作活動と並行して、地域や社会への貢献活動にも積極的に取り組みました。岡山家庭裁判所の調停委員を務めたり、「平和憲法を守る会」の岡山代表委員、世界連邦都市岡山県協議会の事務局長代理を務めるなど、多方面で活躍しました。

特に、永瀬清子は、生前から宮沢賢治を深く敬愛していました。賢治の死の直前である1933年8月には、詩誌『麺麭』に賢治作品への評論「ノート」を発表しています。さらに、1934年2月に東京で開かれた「宮沢賢治友の会」にも出席しました。この会合は、後の世に広く知られることになる「雨ニモマケズ」の手帳が「発見」された場として知られており、永瀬はその重要な瞬間に立ち会った一人でした。後に永瀬は、この時の状況を詳細に記した文章「『雨ニモマケズ』の発見」を残しており、賢治への深い関心と敬意がうかがえます。

主な著作

『グレンデルの母親』（1930年）
『諸国の天女』（1942年）
『自選詩集 星座の娘』（1946年）
『美しい国』（1948年）
『山上の死者』（1954年）
『アジアについて』（1961年）
『海は陸へと』（1972年）
『短章集』シリーズ（1974年〜）
『私は地球』（1983年）
『あけがたにくる人よ』（1987年）
* 『卑弥呼よ卑弥呼』（1990年）

これらの作品に加え、童話やエッセイ集、詩集の再編集版など、多岐にわたる著作を刊行しており、日本の近代詩史において確固たる足跡を残しました。

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