永瀬義郎

永瀬義郎：情熱と探求の軌跡

永瀬義郎（1891年-1978年）は、日本の版画史に燦然と輝く巨匠の一人です。茨城県に生まれ、土浦中学時代から絵画への情熱を燃やし、独学で研鑽を積みました。東京美術学校彫刻科に入学するも中退、エドヴァルド・ムンクの影響を受け、版画制作に没頭します。

黎明期の挑戦と国際的な視野

1916年、長谷川潔、広島新太郎らと日本版画倶楽部を結成し、第一回展に出品。その後、1923年から1929年にかけては、日本創作版画協会展や春陽会展で作品を発表し続け、1929年には春陽会展で初入選を果たします。この成功を機に、版画研究のため、フランスへ留学。パリ郊外クラマールに滞在し、6点からなる「東洋の旅シリーズ」など、独自の視点で東洋と西洋を繋ぐ作品を制作しました。フランス滞在中は、アカデミーに所属することなく、自由なスタイルで創作活動を続け、フランス国内や日本の展覧会に参加。パリの日本人画家コミュニティとも交流を深めました。

戦乱の時代と新たな表現

1935年、再婚。しかし、台頭するナチスドイツの影を肌で感じ、1936年に帰国。帰国後は大阪、呉、神戸と転居を繰り返し、1938年には大阪、1943年には広島へと移り住みます。戦争中は広島県で疎開生活を送るなど、激動の時代を過ごしました。終戦後、しばらくは油絵を中心に制作。1952年には上京しますが、その後別居し、広島時代に知り合った西迫てる子さんと共同生活を始めます。

後期の活躍と技法の革新

1960年には棟方志功、武田由平らと共に「日版会」を創立。1950年代後半から1960年代にかけては、日版会や光風会、日展などで精力的に作品を発表しました。1973年、永瀬義郎の創作活動における最大の功績の一つである、独自の版画技法「ナガセプリント73」を開発。この技法は、シルクスクリーンの平面的な刷りという基礎を保ちながら、濃淡による奥行きのある表現を可能にし、油彩画に近い質感を実現しました。

国際的な評価と晩年

1974年には東京とパリで新作版画展を開催。フランス国立近代美術館やフランス国立図書館にも作品が収蔵されるなど、国際的な高い評価を得ました。1977年には茨城県立美術博物館で個展が開催され、勲四等瑞宝章を受章。その功績は広く認められました。墓碑に刻まれた言葉「清貧に甘んじなければ　いい作品は生まれない　と言っても貧乏すると卑屈になり　作品まで濁ってくる　ノーブルな精神こそ　優れた作品の母体となる」は、永瀬義郎の生涯と芸術観を端的に表しています。彼の作品は、技術革新のみならず、常に高い精神性と社会への問いかけを内包し続けていました。

代表作と著書

永瀬義郎の代表作として「もの想う天使」があげられます。また、版画家を志す者にとってバイブル的な存在である著書「版画を作る人へ」は、後進の版画家たちに多大な影響を与えました。彼の生涯と作品は、現代の私たちに、芸術と人生の真髄を問いかけ続けています。

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