永男 (呼出)

永男（のりお）

永男（のりお）は、昭和から平成にかけて日本相撲協会で活躍した呼出（よびだし）です。呼出は相撲の本場所や巡業で力士を土俵に呼び上げるほか、土俵整備や太鼓打ち、相撲甚句の披露など、多岐にわたる重要な役割を担っています。その中でも永男は、特に相撲甚句の名手として知られ、また相撲太鼓の腕前にも秀でていました。

略歴と人物

1930年（昭和5年）3月19日、東京府（現在の東京都）に生まれた永男は、本名を福田 永昌（ふくだ のりまさ）といいました。1946年（昭和21年）に、当時の二所ノ関部屋に入門し、呼出としての道を歩み始めます。入門した若い頃は体格が良かったとされ、二所ノ関一門の巡業では、力士に交じって稽古用の土俵に上がった経験もあるという逸話も残されています。

相撲甚句への貢献

永男の呼出としてのキャリアを語る上で欠かせないのが、相撲甚句への情熱です。甚句とは、七五調の囃子歌で、相撲の巡業などで力士や呼出によって披露される伝統芸能です。永男が甚句に本格的に取り組むきっかけは、1956年（昭和31年）に訪れました。趣味で俳句などを書き記していた日記帳を、部屋の先輩力士であった関脇・玉乃海（たまのうみ）太三郎関に見られたことが発端です。玉乃海関から、一門の巡業先の名所などを織り込みつつ、自身の名前で締めくくるオリジナルの相撲甚句を作るように勧められたことから、永男は作詞の才能を開花させていきます。

特に有名なのが、二所ノ関一門の大横綱であった初代若乃花（わかのはな）幹士の引退相撲で披露された『若乃花一代記』です。永男が作詞し、先輩呼出の三郎がこれを歌ったことで、その名を知られるようになりました。その後も、多くの力士の引退相撲や、全国各地で行われる巡業において、永男は自ら作詞・作曲した甚句を披露し続けました。その創作活動は相撲甚句にとどまらず、1979年（昭和54年）には、日本相撲協会の公式歌ともいえるべき「日本相撲協会練成歌」の作詞も担当しています。

相撲太鼓の名手

永男は、相撲甚句だけでなく、相撲太鼓の名手としても知られていました。本場所の開始を告げる一番太鼓や、終了を告げる跳ね太鼓など、相撲における太鼓は観客に時を告げるだけでなく、その日の相撲が終わったことを伝える重要な役割を担います。永男は特に触れ太鼓（本場所前日や当日にその日の取組を知らせるために打つ太鼓）の腕前が高く評価され、NHKの大相撲中継で流れる触れ太鼓を担当していた時期もあるほどでした。

呼出番付と定年、そして晩年

長年にわたり相撲界に貢献してきた永男は、1994年（平成6年）7月場所から日本相撲協会が呼出に番付制度を導入した際、功績が認められて「三役呼出」に位置付けられました。そして、1995年（平成7年）3月場所をもって、呼出としての定年を迎え土俵から身を引きました。

定年後も永男の相撲への情熱は衰えることはありませんでした。特に相撲甚句の普及と継承に力を注ぎ、日本全国の相撲甚句愛好家に呼びかけ、日本相撲甚句会を立ち上げました。自ら会長を務め、日本の伝統文化である相撲甚句を後世に伝える活動に尽力しました。

その著書として、『相撲甚句・有情』（マガジンハウス、1994年）があります。これは、永男が長年作り続けてきた相撲甚句の集大成ともいえる一冊です。

永男は、2012年（平成24年）4月14日、東京都葛飾区内の病院で、心不全のため82歳で永眠しました。呼出として土俵を支え、相撲甚句や太鼓で相撲文化に彩りを加え、そして定年後もその普及に尽力した永男は、相撲界に大きな足跡を残した人物として記憶されています。

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