江島其磧

江島其磧：浮世絵の華麗なる世界と波乱の生涯

江島其磧（えじま きせき、1666年-1735年）は、江戸時代中期を代表する浮世草子作家の一人です。京都の裕福な大仏餅屋の家に生まれ、権之丞、通称庄左衛門と名乗りました。若くして文筆の才能を開花させ、数々の作品を発表し、人気を博しました。

其磧の生涯は、華麗さと苦難が入り混じったドラマチックなものでした。1695年、家業である大仏餅屋を継承。しかし、文筆への情熱は尽きることなく、1696年には浄瑠璃作品にも携わったと推測されています。

転機となったのは、少年時代からの友人であった八文字屋自笑との出会いでした。自笑の依頼により執筆した役者評判記『役者口三味線』は大成功を収め、後の評判記のスタイルに大きな影響を与えたと言われています。この成功を足がかりに、其磧は浮世草子作家としての道を歩み始めます。

1701年、処女作『けいせい色三味線』を発表。その後も、『風流曲三味線』『野白内証鑑』『けいせい伝受紙子』『傾城禁短気』など、精力的に作品を発表し続けました。これらの作品は、多くが無署名もしくは八文字屋自笑の名前で刊行されました。その圧倒的な人気は、当時の有力書肆である西沢一風を凌駕するほどでした。

しかし、順風満帆な人生ではありませんでした。家業の傾きとともに、八文字屋との利益配分を巡る摩擦が生じ、ついに其磧は息子名義で江島屋市郎左衛門という書肆を開業します。独立後は、『寛𤄃役者片気』『野傾旅葛籠』『魂胆色遊懐男』『通俗諸分床軍談』といった好色物や、『商人軍配団』『渡世商軍談』といった町人物などを発表しました。

中でも、『世間子息気質』（1715年）と『世間娘容気』（1717年）は、其磧の代表作として高く評価されています。これらの作品は、当時の若者たちの生き方や世相を鋭く描写し、多くの読者の共感を呼びました。

八文字屋との確執は、1718年に和解で幕を閉じます。和解後は、『浮世親仁形気』『役者色仕組』『女曾我兄弟鑑』『桜曾我女時宗』『出世握虎昔物語』『頼朝鎌倉実記』など、多彩なテーマの作品を発表し続けました。

1735年、70歳で生涯を閉じました。晩年は困窮していたという逸話も残されています。其磧と八文字屋が出版した浮世草子は、「八文字屋本」と呼ばれ、今日まで多くの研究者によって研究されています。

江島其磧は、数々のヒット作を生み出した人気作家でありながら、家業や人間関係の苦悩、晩年の零落など、波乱に満ちた生涯を送りました。彼の作品は、当時の世相や人々の心情を鮮やかに描き出し、現代においてもその魅力は色褪せることがありません。その作品群は、江戸時代の文化を知る上で貴重な資料となっています。

主な作品

役者評判記: 『役者口三味線』
浮世草子: 『けいせい色三味線』『風流曲三味線』『野白内証鑑』『けいせい伝受紙子』『傾城禁短気』『寛𤄃役者片気』『野傾旅葛籠』『魂胆色遊懐男』『通俗諸分床軍談』『商人軍配団』『渡世商軍談』『世間子息気質』『世間娘容気』『浮世親仁形気』『役者色仕組』『女曾我兄弟鑑』『桜曾我女時宗』『出世握虎昔物語』『頼朝鎌倉実記』

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