江戸生艶気樺焼

江戸生艶気樺焼：粋で奔放な色男の物語

『江戸生艶気樺焼』は、江戸時代中期、天明5年（1785年）に刊行された山東京伝の黄表紙です。全3巻からなるこの作品は、24歳の若き京伝の才能が爆発した代表作として知られています。京伝自身による洒落た挿絵も作品の魅力を高めており、当時の出版事情を知る上でも貴重な資料となっています。蔦屋重三郎という著名な版元から出版されたことも、作品の高い人気を物語っています。

百万長者の息子と、色事への執着

物語の中心人物は、百万長者の息子である艶二郎。19歳の彼は、生来の好色家であり、新内節の色男を真似て浮名を流したいと願っています。友人の道楽息子、北里喜之介、幇間医者のわる井志庵と共に、様々な色事を企てます。恋文の書き方から、遊女の見分け方まで、彼らは独自のこだわりを持っています。艶二郎は、情人の名を刺青するほど色事にのめり込み、灸で消した痕を誇りすら感じています。

芸者おゑんとの駆け落ち騒動

艶二郎は、役者宅に熱狂的なファンが駆け込む様子に憧れ、芸者おゑんを50両で雇い、自邸に駆け込ませるという騒動を起こします。おゑんは艶二郎の指示通りに台詞を述べますが、思ったほど話題にならず、艶二郎は読売を使って摺り物を配り、宣伝に躍起になります。しかし、効果は薄く、艶二郎は吉原へと向かうのでした。

女郎買いと、焼餅の妙味

吉原では、遊女・浮名に一目惚れした艶二郎。しかし、ただ遊女と遊ぶだけでは満足できず、浮名の情夫になりたいと願います。志庵の協力の下、艶二郎は浮名を独占しようとしますが、その過程で様々な騒動が巻き起こります。また、妾を囲いますが、彼女からの激しい焼餅に、艶二郎は意外な喜びを感じるのでした。

提灯奉納と、粋な芝居

役者や遊女が寺社に奉納するのに倣い、艶二郎は浮名との比翼紋の提灯を回向院に奉納します。さらに、色男は打たれるものだと考え、地廻りを雇って吉原で殴られるという奇行に出ます。金持ちであることに嫌気がさした艶二郎は、勘当を願い出、それを機に、様々な奇行を重ねていきます。

狂言心中と、意外な結末

勘当期間中、艶二郎は色男らしい商売として地紙売を始めますが、すぐに挫折します。勘当延長中に、艶二郎は浮名との狂言心中を計画します。心中の衣装には「肩に金てこ裾には碇、質においても流れの身」という洒落た文句が染めぬかれています。しかし、心中の最中、泥棒に襲われ、全財産を奪われるという、予想外の結末を迎えます。この騒動は、世間へ広く知れ渡ることとなります。

世間の噂と、真の幸せ

勘当期間が明けた艶二郎は、この騒動を教訓に、浮名と夫婦となり、幸せな生活を送るようになりました。そして、これまでの騒動を京伝に頼んで草双紙にまとめ、世間に広めることを決意するのです。艶二郎は、自身の経験を通して、世間知らずの若者から、真の幸せを理解する人物へと成長を遂げます。

黄表紙の魅力

『江戸生艶気樺焼』は、単なる色事の物語ではありません。艶二郎の奔放な行動を通して、当時の世相や風俗、人々の価値観がユーモラスに描かれています。また、山東京伝による挿絵も、物語をさらに盛り上げ、当時の読者を楽しませたことでしょう。現在でも、その軽妙な語り口と、現代に通じる人間模様は、多くの読者に新鮮な驚きと楽しみを与え続けています。国立国会図書館デジタルコレクションで、この作品を閲覧することができます。

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