江戸買物独案内

江戸買物独案内とは

『江戸買物独案内』は、1824年に大阪で出版された、江戸の買い物や飲食店に関する詳細なガイドブックです。本書は、およそ2600の商店を紹介しており、当時の江戸を訪れる人々にとって欠かせない情報源となっていました。プロデューサーは中川五郎左衛門（別名・中川芳山堂）で、上方の版元による制作が行われました。

出稿料と掲載基準

本書は、江戸の商店からの出稿料によって成り立っており、出稿料を払った店が優先的に掲載される仕組みでした。このため、著名な店でも出稿料を支払っていなければ、ガイドには載っていなかった可能性があります。

『江戸買物独案内』は、三巻から成り、上巻と下巻には様々な業種の商店が並べられています。カテゴリーは扱う商品名のいろは順で整理されており、たとえば薬種問屋は「くすり」の「く」の部に位置付けされています。また、三巻目には飲食に特化した商店が紹介され、各店の名称、住所、ロゴマークが記載されています。

序文と視覚要素

内容は、全ページに渡って各商店の広告が並んでいるシンプルなデザインですが、序文は当時の有名ライター・蜀山人（大田南畝）が手掛け、口絵は人気イラストレーター・葛飾為一（葛飾北斎）が担当するなど、実用性だけでなく美的要素も取り入れられていました。

このような魅力的なガイドブックは、地方から江戸に向かう人々に支持され、多くの模倣版が生まれる素地となりました。『甲府買物独案内』や『東京買物独案内』などがその例で、江戸の商業文化の一端を担う存在として広がりました。

店舗情報と変遷

各店舗は約1ページの1/3を用いて紹介されており、出稿料を多く支払った店はその分だけ広いスペースを占めていました。例えば、薬種問屋の中には4ページにわたって宣伝されている店舗も存在しました。

しかし、この本に掲載されている200年近く前の情報は、現在の店舗事情には大きな変化が見られます。閉店している店舗が多い中、存続している店でも住所が変更されていたり、ロゴが異なっているケースが少なくありません。たとえば、「けぬきすし」という店は当時「京橋」と記載されていますが、現在は神田小川町に移転しており、ロゴも「毛抜き」から「当たり矢」に変わっています。正確な情報を知りたい場合は、現代のガイドや特集を参照することが推奨されます。

ロゴと屋号の変遷

同時に、伊勢屋伊兵衛（現・にんべん）や廣屋儀兵衛（現・ヤマサ醤油）など、ロゴや業態は同じでも屋号が変更されている店も見受けられます。現代では流通の発展により、これらの企業の製品を江戸に行かずとも購入可能です。現在のにんべんの本社は1720年から変わっていませんが、江戸の住所が「東京都中央区日本橋室町」として現在では更新されています。

現存するが業態変更

中には現存する企業もあり、たとえば小西屋六兵衛（現・コニカミノルタ）は宣伝が掲載されていますが、現在の主力商品は「烏効散」ではなく、決してその名称が示すものではありません。これらの事例は、江戸時代の商業の変遷を如実に示しています。

まとめ

『江戸買物独案内』は、江戸時代の商業活動や文化を理解するための貴重な資料であり、その影響力は現代にも色濃く残っているのです。

もう一度検索