池司

池司（いけし）とは

池司とは、中世から近世の日本において、用水池や溜池の管理・運営を担った役職、またその職にある者を指します。地域によっては、井司（いし）、池守（いけもり）、井守（いもり）、池奉行（いけぶぎょう）、井奉行（いぶぎょう）など、さまざまな別名で呼ばれていました。

池司の役割と選任

池司には、地域の灌漑事情に精通していること、そして公平に用水を配分できる能力、いわゆる「器用」さと「仁」が求められました。その役割の重要性から、池司には、自己の田畑への一定の灌漑の権利や、給田、さらには利用者から徴収した使用料（井料）の一部を受け取るといった報酬が与えられることもありました。

池司は、基本的には領主（荘園領主や大名など）によって任命されていましたが、その選任方法には二つのパターンがありました。一つは、その地位を世襲・相伝的に継承させるパターンです。これは、長年の経験や知識を次世代に伝えることで、より安定的な運営を目指すものでした。もう一つは、既得権益化を防ぐため、地位が空くたびに領主が新たに任命し、世襲や相伝を排除するパターンです。この場合は、常に新しい人材を登用することで、不正を防ぎ、より公平な運営を目指す意図がありました。多くの場合、池司には現地の有力者である土豪や名主などが任命されました。

中世後期から近世への変化

中世後期に入ると、領主と池司の力関係に変化が生じ、池司の職が売買や相伝の対象となるケースも現れました。これは、池司の権限が強まるにつれて、その地位が一種の財産とみなされるようになったためと考えられます。近世になると、用水池や溜池の開発・再興に貢献した有力者が、藩などの領主権力から世襲で池司に任命される事例が一般化しました。河内国狭山池の田中氏や讃岐国満濃池の矢原氏などは、その典型的な例と言えるでしょう。これらの事例は、長年の貢献が認められ、その地域における水利の安定に大きく寄与しました。

まとめ

池司は、日本の農業を支える上で不可欠な存在でした。その役割は、単に水路を管理するだけでなく、地域の水利用を公平に調整し、安定した農業生産を支えることでした。その選任方法や報酬、役割は時代や地域によって異なりましたが、その重要性は常に変わりませんでした。

参考文献
岡田隆夫「池司」（『国史大辞典 1』、吉川弘文館、1979年）
福田榮次郎/福田アジオ「池司」（『日本史大事典 1』、平凡社、1992年）

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