池田内閣

池田内閣は、自由民主党の池田勇人が第58代、第59代、そして第60代の内閣総理大臣として率いた一連の日本の内閣群を指します。具体的には、昭和35年（1960年）7月19日に第1次内閣が発足し、昭和39年（1964年）11月9日に総辞職するまでの約4年3ヶ月にわたり政権を担当しました。

この期間、日本は急速な経済成長を遂げており、池田内閣はその成長をさらに加速させ、戦後復興から経済大国への道を確固たるものとしました。

池田内閣は、組閣や改造を経て、以下の7つの内閣・改造内閣が存在します。

第1次池田内閣: 昭和35年（1960年）7月19日 - 同年12月8日
第2次池田内閣: 昭和35年（1960年）12月8日 - 昭和36年（1961年）7月18日
第2次池田第1次改造内閣: 昭和36年（1961年）7月18日 - 昭和37年（1962年）7月18日
第2次池田第2次改造内閣: 昭和37年（1962年）7月18日 - 昭和38年（1963年）7月18日
第2次池田第3次改造内閣: 昭和38年（1963年）7月18日 - 同年12月9日
第3次池田内閣: 昭和38年（1963年）12月9日 - 昭和39年（1964年）7月18日
第3次池田改造内閣: 昭和39年（1964年）7月18日 - 同年11月9日

「所得倍増計画」という旗印

池田内閣の最も象徴的な政策であり、その後の日本の進路を決定づけたのが、昭和35年（1960年）12月に閣議決定された「国民所得倍増計画」です。これは、今後10年間で日本の国民総生産（GNP）を実質的に2倍にすることを目指した壮大な経済振興策でした。

この計画は、設備投資の活発化、科学技術の振興、産業基盤としての社会資本（道路、港湾など）の整備、産業構造の高度化、国際貿易の推進といった具体的な施策を柱とし、経済成長の果実を国民の生活水準の向上に繋げることを明確に目標としていました。

経済官僚出身である池田首相は、経済成長こそが国民生活を豊かにし、社会を安定させるとの信念を持ち、政治の焦点を経済に絞りました。所得倍増計画は、単なる経済指標の目標設定にとどまらず、「豊かな暮らし」という具体的な希望を国民に提示することで、全国民的な経済活動への参加意欲を高め、高度経済成長期を文字通り牽引する原動力となりました。結果として、目標の10年間を待たずして、計画発表からわずか7年後の昭和42年（1967年）には国民所得は2倍を達成し、その成果は目標を大きく上回るものとなりました。

「寛容と忍耐」の政治姿勢

池田内閣が発足した直前、岸信介内閣のもとでは日米安全保障条約改定を巡る激しい反対運動（安保闘争）が展開され、日本社会は深刻な分断と混乱を経験しました。この状況を踏まえ、池田首相は「寛容と忍耐」を自身の政治姿勢の基本とし、社会の対立や混乱を避けることに努めました。

政治論争よりも経済問題に集中する「低姿勢」の政治を展開することで、国民の間に安定と安心感をもたらし、政治への信頼回復を図りました。この姿勢は、当時の経済成長による社会の安定志向とも合致し、一定の国民的支持を得ました。

内閣期間中の主な出来事

池田内閣の期間中には、戦後日本の発展を象徴する重要な出来事が相次ぎました。

昭和36年（1961年）には、農業の近代化と構造改革を目指す「農業基本法」が制定されました。
昭和39年（1964年）には、日本の経済大国としての国際社会への仲間入りを示す出来事として、経済協力開発機構（OECD）への加盟が実現しました。
そして何よりも、昭和39年（1964年）10月に開催された東京オリンピックは、池田内閣下の最大の国家的イベントでした。戦後復興を遂げた日本の姿を世界に示し、国民に大きな自信と活力を与えました。オリンピック開催直前の10月1日には、近代日本の大動脈となる東海道新幹線が開業しています。

退陣へ

昭和39年（1964年）の東京オリンピックの成功を見届けた直後、長年喉の不調を抱えていた池田首相の病状が悪化しました。精密検査の結果、喉頭癌であることが判明し、オリンピックの成功を一つの区切りとして、同年10月25日に病気療養を理由に内閣総理大臣の辞任を表明しました。

同年11月9日、池田内閣は総辞職し、後任の首相には佐藤栄作が就任しました。

評価

池田内閣は、経済成長を国政の最重要課題とし、「所得倍増計画」という分かりやすい目標と具体的な政策を掲げることで、国民に夢と希望を与え、日本の高度経済成長期を決定的に加速させた政権として、歴史的に高く評価されています。その経済政策の成功は、その後の日本の社会構造や国民意識に大きな影響を与えました。また、混乱を避ける「寛容と忍耐」の政治姿勢も、当時の国民感情に寄り添うものであったと言えます。

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