池田重子

池田重子（いけだ しげこ）は、1925年（大正14年）12月21日に神奈川県に生まれ、2015年（平成27年）10月13日に89歳で生涯を閉じた、日本のアンティーク着物収集家、またデザイナーとしても知られる存在です。特に明治時代以降に作られた貴重な和装品を数多く集め、その膨大なコレクションは日本の染織史や装いの文化を知る上で非常に価値の高いものとして、広く認知されています。

コレクションと活動

池田重子氏の活動の中心にあったのは、自らが集めた時代布や着物、そして帯や帯留、バッグといった様々な和装小物のコレクションです。これらの品々を通して、日本の近代におけるおしゃれの歴史や人々の暮らしぶりを現代に伝承しました。彼女は単なる収集家にとどまらず、これらのコレクションを一般に公開する展覧会を積極的に開催しました。特に、1993年（平成5年）にスタートした「日本のおしゃれ展」は、その独特の世界観と質の高いコレクションで多くの人々を魅了し、長年にわたり好評を博しました。また、これらの時代布や時代衣裳を扱う自身の店舗「時代布と時代衣裳 池田」を東京・目黒に開き（1976年）、多くの着物ファンにとって特別な場所となりました。

独自の審美眼とスタイル

池田重子氏の才能は、収集に留まらず、自ら着物のデザインやコーディネートも手掛けた点にあります。1978年（昭和53年）からは本格的にデザインを発表するようになり、「夢工房」や「池田重子きものコレクション」といったブランドを展開しました。彼女のコーディネートは、単に着物を着るという行為を超え、帯や様々な小物を効果的に組み合わせることで、着る人の個性や TPO に合わせた「おしゃれ」を提案するものでした。そのスタイルは、着物の持つ「格」や時代の流れをしっかりと踏まえつつも、江戸時代に培われた「粋」の感覚を巧みに取り入れ、横浜という国際的な港町で育まれた独自の感性が加わった「横浜スタイル」として高く評価されています。

生涯と経歴

横浜市で生まれた池田氏は、1942年（昭和17年）に神奈川県立第一高等女学校を卒業後、1947年（昭和22年）には文化服装学院で服飾デザインを学びました。これらの教育が、後の和装品に対する深い理解と、独自の美意識を育む礎となったと言えるでしょう。服飾の世界で学んだ後、アンティーク和装品の収集に情熱を傾け、次第にその活動の場を広げていきます。1973年（昭和48年）には新宿京王百貨店で「時代布屏風展」を開催するなど、早くから自身のコレクションを紹介する機会を設けていました。その後、目黒に自身の店を開き、コレクションの公開、販売、そしてオリジナルデザインの発表と、その活動は多岐にわたりました。

著作

池田重子氏は、自身のコレクションや着物に関する知識、そして独自のコーディネート術をまとめた数多くの著書も発表しています。帯留、袋物、髪飾りといった和装小物に特化したものから、季節ごとのきものコーディネートを提案するものまで、その著作は着物愛好家にとって貴重なガイドブックとなっています。

『日本のおしゃれ 帯留』（2005年）
『日本のおしゃれ 袋物』（2006年）
『美の世界（婦人画報BOOKS）』（2006年）
『髪飾り-日本のおしゃれ 池田重子コレクション』（2007年）
『池田重子流きものコーディネート 冬のおしゃれ』（2008年）
『池田重子流きものコーディネート 春のおしゃれ』（2008年）
『池田重子流きものコーディネート 夏のおしゃれ』（2009年）
『池田重子流きものコーディネート 秋のおしゃれ』（2009年）
* 『池田重子コレクション 半衿のおしゃれ』（2009年）

関連人物

池田氏の活動は、多くの人々に影響を与えています。デザイナーの山田百里恵氏は、池田氏の影響を受け、着物ドレスのブランドを手掛けるに至りました。また、着付師で着物スタイリストの石田節子氏は、時代布池田の出身として知られています。

長年にわたり日本の和装文化、特におしゃれの側面からその魅力を伝え続けた池田重子氏は、2015年（平成27年）10月13日、肺炎のため惜しまれつつこの世を去りました。しかし、彼女が集めた貴重なコレクションや、確立した独特の「横浜スタイル」は、今なお多くの人々に愛され、日本の着物文化の一つのスタイルとして語り継がれています。

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