池袋モンパルナス

池袋モンパルナス：大正から昭和初期の芸術の灯火

1920年代後半から1940年代にかけて、東京・池袋周辺（豊島区西池袋、椎名町、千早町、長崎、南長崎、要町など）には、多くの芸術家が拠点を構えたアトリエ村が存在しました。この地域と、そこで活動した芸術家たちによって築かれた文化圏が「池袋モンパルナス」です。

「モンパルナス」という名称は、パリの芸術家村に由来します。岡本一平や小熊秀雄といった文化人が、池袋の芸術活動をパリのモンパルナスになぞらえて名付けたとされています。しかし、一般的に広く使われるようになったのは比較的近年になってからのことです。

このアトリエ村には、画家、彫刻家、音楽家、詩人など、様々なジャンルの芸術家が暮らしていました。彼らはそれぞれの芸術活動を行い、互いに刺激を与え合い、活発な文化交流を繰り広げました。その活動は、1940年頃をピークに、太平洋戦争の勃発と空襲によって終焉を迎えます。多くの芸術家が召集されたり、疎開したりせざるを得ない状況になったのです。

1945年4月13日の空襲は、池袋モンパルナスにも甚大な被害をもたらしました。アトリエや住居が破壊され、芸術活動は中断を余儀なくされたのです。戦後、この地には戦争で家を失った人々が住むようになり、かつてのアトリエ村は様変わりしました。しかし、生き残った芸術家や新たな芸術家たちが集まり、再び創作活動が活発化していきました。安部公房や勅使河原宏、瀬木慎一といった著名な芸術家も、この地に出入りしていました。

興味深いことに、太平洋戦争中の沖縄においても、池袋モンパルナスに似たような動きが見られました。沖縄の伝統文化を守るために設立されたニシムイ美術村は、池袋モンパルナスの影響を受けていると考えられています。

近年、豊島区立熊谷守一美術館やアトリエ村資料室などの設立により、池袋モンパルナスの歴史や文化遺産が再評価されています。「池袋モンパルナス」という名称も、一般的に広く知られるようになってきました。1997年には劇団銅鑼が「池袋モンパルナス」を舞台化し、大きな話題を呼びました。この公演をきっかけに「池袋モンパルナスの会」が結成され、現在も活動を続けています。

池袋モンパルナスに関わった芸術家は数多く存在し、その活動は多岐に渡ります。彼らの作品は、日本の近代美術史において重要な位置を占めており、後世の芸術家たちに大きな影響を与え続けています。

関連資料として、ドキュメンタリーDVD『怪獣のあけぼの』などが挙げられます。このDVDには、池袋モンパルナス出身の怪獣造型家、高山良策の生涯が描かれており、池袋モンパルナスの様子や当時の芸術家たちの活動が紹介されています。

池袋モンパルナスは、単なるアトリエ村ではありませんでした。それは、多様な芸術家たちが集い、創造性を燃やし、独自の文化を築き上げた場所でした。そして、その精神は、現代においても多くの芸術家たちに受け継がれ、新たな創造の源泉となっています。これからも、この歴史と文化を大切にし、次世代へと伝えていくことが重要です。

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