決断 (小杉健治)

小杉健治による推理小説『決断』（けつだん）は、人間の複雑な内面に切り込む筆致で知られる作者の代表作の一つです。『小説推理』誌上にて2013年9月号から2014年1月号にかけて連載され、その後単行本として双葉社から刊行されました。この作品は、18年という時を超えて繋がる二つの殺人事件を軸に、登場人物たちの「決断」が物語を紡ぎ出していく重厚なミステリーです。

本作は2015年3月4日には、テレビ東京系列の「水曜ミステリー9」枠で単発のテレビドラマとしても映像化されました。制作はテレビ東京、BSジャパン、テレパックが担当し、脚本を林誠人、監督を渡邊孝好が務めています。原作の骨子を丁寧に踏まえつつ、映像作品ならではの緊迫感と人間ドラマが描かれました。

テレビドラマ版の物語は、東京都芝浦のマンションで発生した殺人事件から幕を開けます。被害者は銀座の高級クラブでホステスとして働く女性（大西真由）でした。事件現場に臨場した東京地検の検事、江木秀哉は、そこで言葉にできない奇妙な違和感を覚えます。その後の司法解剖によって、被害者が妊娠3か月だったことが判明し、事件は新たな側面を見せ始めます。

捜査が進む中で、マンションの防犯カメラの映像から不審な男の存在が明らかになります。その人物が、偶然にも東京地検の公金不正流用疑惑を厳しく追及していた民友党の代議士、芦田俊弥であることが判明し、彼に容疑の目が向けられます。

驚くべきことに、この芦田俊弥という名前が、秀哉の父親である江木秀蔵の過去と繋がります。秀蔵はかつて「名刑事」と謳われた人物でしたが、彼が捜査に当たった事件の中で唯一解決に至らなかったのが、18年前に発生したグラビアモデル殺害事件でした。その未解決事件の関係者リストの中に、芦田の名前があったのです。

秀哉は、18年前の事件における当時の容疑者とされていた戸山洋司を訪ねます。すでに死体遺棄罪の時効が成立していることを伝え、説得を試みた結果、戸山は18年前に芦田に頼まれて被害者の死体を遺棄したことを認めます。当時、芦田の父親は次期警視総監候補と目されるほどの高位な警視監の地位にあり、その権力が息子に関わる事件の揉み消しに利用された可能性が強く示唆されます。

秀哉と秀蔵の親子は、秀哉の母親の死を巡る誤解などから長らく絶縁状態にありました。しかし、18年という長い時を隔てて発生した二つの事件が交錯し、父の未解決事件と向き合う過程で、頑なだった親子の間の壁が少しずつ崩れていきます。この二つの事件の真相を追うことが、皮肉にも分断されていた親子の絆を再び結びつける「決断」となるのです。

テレビドラマ版を彩る主なキャストは以下の通りです。

江木秀哉：中村俊介
江木秀蔵：古谷一行
芦田俊弥：岡本健一
勝呂碧：酒井美紀
島本伸宏：上島竜兵
高須幸彦：渡辺いっけい
福島めぐみ：大島蓉子
大西真由：かでなれおん
大泉哲也：大高洋夫
野川三郎：井坂俊哉
辻村邦夫：林泰文
夏井智美：小沢真珠
塚本信三：矢島健一
涌谷浩：大河内浩
江木純子：由夏
香月美穂：小野しおり
戸山洋司：伊東孝明

ドラマ制作を支えたスタッフには、以下の面々が名を連ねています。

原作：小杉健治
脚本：林誠人
プロデューサー：中川順平（テレビ東京）、池端俊二、黒沢淳
撮影：安田圭（j.s.c）
照明：田中岳
VE：舘野晃一
音声：関川力央
編集：山田典久
法律監修：落合洋司
医療指導：依田茂樹
チーフプロデューサー：橋本かおり（テレビ東京）
* 監督：渡邊孝好

小説『決断』およびそのテレビドラマは、過去の出来事が現在の事件とどのように絡み合い、登場人物たちの人生に深い影響を与えていくのかを描き出すことで、ミステリーとしての面白さだけでなく、人間ドラマとしての感動をも提供する作品と言えるでしょう。

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