決闘用ピストル

決闘用ピストル：18世紀から19世紀の紳士のたしなみと、その技術

18世紀後半から19世紀前半、ヨーロッパ社会において、剣に代わって決闘の主役となったのがピストルです。本稿では、この時代に使われた特殊な拳銃、「決闘用ピストル」について詳細に解説します。

決闘用ピストルの誕生と特徴

決闘用ピストルは、通常1発装填のフリントロック式またはパーカッションロック式で、黒色火薬を使用していました。高精度な部品を手作業で製作し、弾丸には空洞がないものを厳選するなど、細心の注意が払われていました。しかし、決闘を「神の審判」と捉える観点から、命中精度を高めるライフリング（銃身に螺旋状の溝を刻む加工）は忌避される傾向にありました。

2挺1対で専用の木製ケースに収められ、火薬入れや弾込め用具などの付属品も含まれており、非常に高価なものでした。公平性を期すため、決闘者同士は同じピストルを用いるのが一般的でしたが、実際には各自のピストルを使うことも多く、2挺あることは1発目で決着がつかなかった場合の予備として重宝されました。19世紀後半には、ワックス弾を用いた非致死性の決闘用ピストルも登場し、決闘が競技化される動きもありました。

デザインと製造

決闘用ピストルの銃身は長く、重く作られていました。これは照準の安定性と反動軽減を目的としており、初期は円筒形でしたが、後に八角形になる傾向が見られました。また、光の反射を抑えるため、銃身表面は青みや茶色みがかった色に化成処理（ブルーイング）されていました。

グリップの向上のため、トリガーガードに中指を置く突起部が追加されたり、鋸状のハンドルやプラチナ製のタッチホール（発火孔）、ヘアトリガー（繊細な引き金）といった特徴的な機構が採用されることもありました。銃の不発は射撃完了とみなされたため、銃の信頼性は非常に重要でした。

すべての部品を手作業で仕上げ、高精度に調整された決闘用ピストルは、当時の標準的な銃器よりもはるかに高価でした。鉛の弾丸も空洞のないよう細心の注意を払って製造されました。決闘では、同一形式のピストルと弾丸を使用するのが一般的でしたが、決闘者が自身のピストルを使用することもありました。

決闘は35～45フィート（11～14メートル）という至近距離で行われたため、極端に高い精度は求められませんでしたが、銃身の長さは約250ミリ（10インチ）前後、口径は0.45インチ（11ミリ）から0.65インチ（17ミリ）程度が一般的で、弾丸の重さは口径によって異なりました。当時の医療水準では、このような銃弾による負傷はしばしば死に至り、数時間から数日後に亡くなることも珍しくありませんでした。

イギリスのピストルはほとんどがライフリングのない滑腔銃でしたが、一部には肉眼では確認しにくい程度のライフリングが施されたものもありました。ライフリングは命中精度を大幅に向上させる効果があるため、決闘精神に反すると見なされ、使用は避けられる傾向がありました。ライフリングがあっても、発射口の手前までしか刻まれていないフレンチ・ライフリングなどが用いられることもありました。

18世紀には決闘は「神による審判」と見なされていたため、精度の劣る滑腔銃が好まれました。一方、ヨーロッパ大陸では、滑腔銃を使用するのは臆病者と見なされ、ライフリングされた施条銃が主流でした。施条銃は、大きめの弾丸を用いるため、弾込め用のハンマーが付属していることも多かったです。

決闘用ピストルと類似のピストルとの違い

決闘用ピストルは、騎兵ピストルや旅行用ピストルと混同されやすいですが、これらは用途が異なっています。騎兵ピストルは馬上での使用を想定しており、軍用として戦闘や護身に使われましたが、決闘にも用いられることもありました。旅行用ピストルは、路上強盗から身を守るために旅行者が携帯していました。これらはいずれも前装式で高価であり、2挺1対で付属品付きのケースに入れて販売されるという共通点があります。

決闘の方法

ピストル決闘では、公平性を期すため、同じピストルを用いるのが理想とされました。しかし、実際には各自のピストルを用いることも許容されており、1発目で決着がつかない場合に備えて予備のピストルがあった方が有利でした。

決闘の方法にはいくつかの様式がありました。イギリスでは、決められた距離で静止し、合図で同時に撃ち合う形式が一般的でした。フランス式では、背中合わせで開始し、一定の歩数を歩いた後に振り向き合って撃ち合うというものでした。バリア・デュエルでは、互いに向かって歩き、任意のタイミングで撃ち合うというものでした。

競技用ピストル

19世紀後半から20世紀初頭にかけては、ワックス弾を用いた競技用のピストル決闘が行われ、1906年と1908年のオリンピックでも準競技種目として採用されました。フランスのフォーレ・ル・パージュ社は、このような競技専用のピストルを製造していました。

製造メーカー

決闘用ピストルの製造は、イギリス、フランス、アメリカなどの職人によって行われていました。特にロンドンのウォグドン＆バートン、ダース・エッグ、マントン、モーティマー、ノック、パーディーなどの会社は有名でした。ウォグドンは決闘用ピストルの代名詞的存在となり、「ウォグデン事件」と呼ばれるほどでした。決闘用ピストルは、通常、2挺1対で木製のケースに収められて販売されました。ケースの中には、火薬入れ、弾込め用具、予備のフリント、工具などが含まれていました。

まとめ

決闘用ピストルは、単なる武器ではなく、18世紀から19世紀の社会風習や技術水準を反映した、歴史的にも興味深い存在です。その精巧な設計と製造、そして決闘における使用方法を知ることで、当時の社会状況や文化をより深く理解することができます。

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