油井一二

油井一二(1909-1992)は、日本の美術界に大きな貢献を果たした実業家にして美術商であった。長野県佐久市に生まれ、小学校高等科卒業後、上京。1931年、東亜美術協会の絵画出張販売員としてキャリアをスタートさせる。その後、1934年には仲間と共に日東美術協会を設立、美術界での活動を本格化させた。

しかし、1937年から1939年にかけては、日中戦争に従軍。戦地での経験は、その後の彼の人生観や事業に少なからず影響を与えたと考えられる。戦後、1941年には上野広小路に自身の美術店を開設するも、東京大空襲によって店は焼失するという苦境を経験した。

それでも油井は諦めなかった。作家の武者小路実篤と親交を深め、その作品を扱うことで事業を再建。そして1965年、大きな転機が訪れる。「美術年鑑」の権利を創刊者から買い取り、「美術年鑑社」を設立、代表取締役社長に就任したのだ。この会社設立は、日本の美術界における情報の流通と発展に大きく貢献することとなる。

さらに、1971年には「新美術新聞」を創刊。出版事業を展開する傍ら、長年にわたる美術活動の中で収集した数々の作品を、1977年に出身地の佐久市に寄贈した。この寄贈は、郷土への深い愛情と美術振興への強い意志を示すものだった。その功績を称え、1983年には佐久市立近代美術館 油井一二記念館が開館。油井の収集した美術品は、多くの人々に鑑賞される機会を得ることとなった。

油井一二の生涯は、戦時下の経験、事業における成功と挫折、そして郷土への貢献など、様々な出来事によって彩られている。美術商としての活動に加え、出版事業への進出など、常に新しい挑戦を続け、日本の美術界に大きな影響を与えた人物であったと言える。彼の情熱と行動力は、現代の美術界にも大きな示唆を与え続けている。油井一二記念館は、彼の功績と、彼によって収集された貴重な美術品を後世に伝える重要な施設となっている。彼の生涯は、日本の美術史において重要な一ページを刻んでいると言えるだろう。

油井一二の活動は、美術商としての活動にとどまらず、美術年鑑の出版や新美術新聞の創刊といった出版事業にも及ぶ。これらの事業を通じて、美術界の情報発信に貢献し、日本の美術文化の発展に大きく寄与した。さらに、郷里への美術品の寄贈は、地域社会への貢献という側面からも、彼の多面的な功績を際立たせている。これらの活動を通して、油井一二は日本の美術界に、多大な足跡を残したと言えるだろう。彼の功績は、これからも多くの人々によって語り継がれていくに違いない。

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