沽券

沽券（こけん）とは

沽券とは、近世日本において、家屋敷の売買契約を証明するために作成された書面のことです。沽券状とも呼ばれます。現代の不動産売買における契約書や権利証に相当するもので、土地の所有権を証明する重要な役割を果たしました。

沽券の成立と役割

土地の売買は、町役人や五人組の立ち会いのもとで行われました。売買契約が成立すると、その証として沽券が作成されました。沽券には、土地の所在地や面積、売買代金などの詳細が記載され、売買契約の内容を明確にする役割がありました。また、土地の権利証としての役割も果たし、土地の所有権を証明する重要な書類として扱われました。

当時、日本では火災が多発し、家屋がしばしば消失していました。そのため、沽券には家屋の情報は記載されず、土地に関する情報のみが記載されることが一般的でした。

また、土地を担保にする場合も、町役人や五人組が契約に立ち会いました。この際、町役人が担保物件の沽券を預かり、担保が完済されるまで保管しました。

沽券と土地の価値

沽券には売買代金が記載されていたため、土地の価値を証明するものとみなされました。このことから、「沽券に関わる」という慣用句が生まれ、名誉や体面を損なうという意味で使われるようになりました。

沽券の存在しない土地

沽券は売買契約書であるため、町割りから一度も売買が行われていない土地には沽券が存在しませんでした。また、江戸開府以前から土地を所有している地主は「草分け地主」と呼ばれ、特別な存在として扱われました。

沽券帳類

沽券に関する記録は、町役人邸に保管されていました。具体的には、家屋敷ごとに所有者の移動を記録した「沽券帳（水帳）」や、沽券状の控えを載せる「沽券状帳」などがありました。これらの帳簿は、沽券が紛失した場合などにおいて、一種の不動産登記簿として機能しました。

また、奉行所は、町役人などに沽券状を元にして、屋敷割を示した絵図「沽券図（沽券地図）」の作成を命じました。沽券図には、個々の町屋敷の間口、奥行、沽券金高（売買価格）、地主名、家守名（屋敷の管理者）のほか、道路や上水、下水、橋梁などの情報が詳細に記載されていました。沽券図は、土地の正確な情報を把握するための重要な資料として活用されました。

まとめ

沽券は、近世日本の土地取引において重要な役割を果たした書面です。単なる売買契約書としてだけでなく、土地の権利証や価値証明としての役割も担っていました。沽券に関する記録は、当時の土地制度や社会構造を理解するための貴重な資料となっています。

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