法隆寺献納宝物

法隆寺献納宝物：飛鳥・奈良時代の至宝

法隆寺献納宝物とは、奈良県斑鳩町の法隆寺に伝来し、明治時代に皇室へ献納された300件以上の文化財の総称です。現在は東京国立博物館が所蔵しており、その多くが飛鳥時代から奈良時代前期にかけての貴重な工芸品や仏像で構成されています。正倉院宝物よりも古い時代のものが含まれており、日本の古代文化を知る上で非常に重要な資料となっています。

法隆寺宝物館

東京国立博物館内にある法隆寺宝物館では、これらの宝物が展示・保管されています。宝物には、聖徳太子ゆかりの品々が多く含まれており、絵殿にあった「聖徳太子絵伝」（国宝）や、「四十八体仏」と呼ばれる飛鳥・奈良時代の小金銅仏群、金属工芸品、染織品、調度品、伎楽面など、多岐にわたる優品が収蔵されています。

特に、伎楽面は正倉院宝物と並ぶ貴重なコレクションであり、飛鳥・奈良時代の小金銅仏群は質・量ともに他に類を見ないものです。また、保存が難しい古代の染織品が多数残っている点も、法隆寺献納宝物の大きな特徴と言えるでしょう。

献納の経緯

1878年（明治11年）、法隆寺は当時の皇室に宝物を献納しました。これは、明治初年の神仏分離・廃仏毀釈により、経済的に困窮していた法隆寺が、寺の維持・修繕のために苦渋の決断をした結果でした。当時、法隆寺は真言宗に所属していましたが、宗派からの独立も悲願であり、宝物を皇室に献納することで、堂宇の修繕費用を得るとともに、寺の運営を安定させようと考えたのです。

献納された宝物は、伎楽面や仏具類、染織品など、比較的小型で持ち運びやすいものが中心でした。これらの多くは、江戸時代に出開帳で公開されたことのあるものでした。

出開帳と献納宝物

出開帳とは、寺院が秘仏や霊宝を都市部で公開し、信仰を広めるとともに、寺の再建や修繕のための資金を集める行事です。法隆寺は、江戸時代に何度か出開帳を行っており、その際に公開された宝物の中には、後に献納宝物となったものが多く含まれています。

1695年（元禄8年）の江戸での出開帳では、玉虫厨子や橘夫人厨子、夢違観音像などの秘宝が公開され、多くの人々が訪れました。また、1842年（天保13年）の江戸出開帳では、115件、約200点の宝物が公開され、その様子は『江戸出開帳日記』に詳しく記録されています。

国有化と法隆寺宝物館の建設

献納された宝物は、皇室の所有品として帝室博物館（東京国立博物館の前身）で保管・展示されていましたが、第二次世界大戦後、GHQの指示により国有化されました。その後、1964年に東京国立博物館内に法隆寺宝物館が開設され、献納宝物が一括して展示・保管されるようになりました。

現在の法隆寺宝物館は、1999年に新しく建て替えられたもので、展示室は1階と2階に分かれています。材質が安定している金銅仏や金属工芸品は常時公開されていますが、染織品などのデリケートな素材の文化財は、展示期間を区切って随時展示替えが行われています。

主な献納宝物

法隆寺献納宝物には、以下のような代表的な作品が含まれています。

綾本著色聖徳太子絵伝：聖徳太子の一代記を描いたもので、平安時代の大和絵障壁画の貴重な遺品です。
金銅灌頂幡：寺院を荘厳するための幡で、7世紀後半の作と推定される日本の金属工芸を代表する作品です。
竜首水瓶：龍の頭をモチーフにした水瓶で、ペルシャ風のデザインが特徴です。シルクロードを通じた東西文化交流を示す遺品として知られています。
四十八体仏：飛鳥・奈良時代の小金銅仏群で、質・量ともに他に類を見ない貴重なコレクションです。
伎楽面：7世紀後半から8世紀前半の伎楽に用いられた面で、正倉院宝物と並ぶ貴重なものです。
法隆寺献物帳：孝謙天皇が聖武天皇の遺愛の品を法隆寺に献納した際の目録で、当時の社会や文化を知る上で重要な資料です。
* 細字法華経：聖徳太子所持と伝えられる法華経で、「御同朋経」とも呼ばれています。


法隆寺献納宝物は、日本の古代文化を今に伝える貴重な文化遺産であり、東京国立博物館法隆寺宝物館でその美しさと歴史に触れることができます。

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