泥炭地 (松本清張)

短編小説『泥炭地』の概要

松本清張による『泥炭地』は、1989年3月号の『文學界』に掲載され、1993年には『松本清張傑作総集Ⅱ』として新潮社から刊行された作品です。これは清張が文芸誌に発表した最後の作品であり、その内容には多くの示唆が含まれています。

あらすじ

物語は、福田平吉という青年が主人公です。彼は小学校の高等科を卒業後、河東電気小倉出張所の給仕として職を得ます。母に過保護に育てられた平吉は、社会での厳しさに対する耐性が薄く、職場では庶務係の牧三郎から厳しい叱責を受けることになります。社員たちは平吉を私用に使うことが多く、郷に入れば郷に従えという状況にも関わらず、平吉はその扱いに苦しむ日々が続くのです。

二年が経ち、平吉を採用した主任星加英明が交替し、若い中浜憲二郎が新たに赴任します。平吉は自己の未来に望みを見出せずにいたが、果たして父丈太郎を失望させたくはなく、心の内を語ることができませんでした。その後、会計担当の品川が福岡支店から転任してきます。彼は流暢な口調とお世辞で周囲の人々を魅了する一方、所長の中浜はその能力に圧倒され、次第に品川は社内で傲慢な態度を示すように変わっていきます。

しかし、品川の不正が明るみに出ると、彼は懲戒免職され、会社の雰囲気は一変します。出張所の場所が移転した後、中浜所長は平吉に新しい給仕服を贈りましたが、背広ではなく給仕服だったことで、平吉は自分が社員に昇進する気がないことを理解しました。家庭の事情を考慮するも、平吉には他に職を探す選択肢がないため、彼の不安は続きます。

ある日、出張所の前に「品川電気商会」が開店します。平吉は以前の品川の威張った姿を思い出し、心が沈みます。品川は平吉に対して、河東電気の未来が危ういことを指摘し、次の人員整理が自分にも降りかかる可能性を暗示します。時が経つにつれ、実際に社員整理が行われることになり、平吉は自分が次のターゲットになるのではないかと恐れを抱くようになります。

エピソード

清張は1927年、18歳の頃に川北電気の給仕として働いていた際に解雇された経験を回想しています。経済的な困難の影響で解雇された彼を見て、父が責任を感じて厳しく接していたことを思い出し、同時にそれが新しい道を切り開く機会でもあったと気づかされます。このエピソードは、作品全体のテーマにもつながる重要な要素です。

テーマ

『泥炭地』は、職場内での人間関係や昇進の難しさ、そして経済的苦境に苦しむ人々の心理を深く掘り下げています。物語は平吉の心の葛藤を通じて、社会の構造的な問題を浮き彫りにし、物語の深いメッセージを伝えています。清張自身が以前に執筆した『河西電気出張所』との類似点も意識され、その成熟した作品として評価されています。このように、『泥炭地』は松本清張の作家としての集大成的な作品であり、その内容は彼の人間観や社会観を反映したものとなっています。

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