浙派

明代の画壇を彩った浙派：粗放な筆致と墨の妙技

浙派は、中国明代を代表する絵画の画派の一つです。浙江省杭州出身の戴進（1388-1462）を祖とし、彼を師と仰ぐ職業画家たちが集まりました。しかし、浙派は、後世の美術史家によって便宜的に分類された集団であり、生きた時代には「浙派」という名称は存在せず、明確な師弟関係も希薄であったことが特徴です。

戴進は宣徳帝に仕えた宮廷画家でしたが、その後失脚し、浙江省を中心に活動しました。浙派の画家たちは、北京や南京、開封、福建省、広東省など、活動拠点は多岐に渡ります。

浙派の絵画は、粗放で力強い筆致と、墨の濃淡、余白の巧みな使い分けが大きな特徴です。写実的な描写よりも、風景の構成や墨の濃淡による奥行き、画面全体の律動感などを重視した画風が中心でした。その基盤には、浙江地方に伝わる伝統的な水墨画の技法があります。

浙派の絵画は山水画が中心ですが、山水人物画、人物画、花鳥画、動物画など、様々なジャンルに広がっています。林良（1424?-1500?）や汪肇といった、花鳥画に秀でた画家も輩出しました。

浙派の画風は、南宋画院の馬遠や夏珪、元時代の李郭派といった先人の影響を受けています。そのため、後世には浙派の作品に偽サインを加え、馬遠や夏珪などの作品として偽造されるケースもありました。

浙派を代表する画家としては、前期には戴進のほかに、南京で活躍した呉偉（1459-1508）、王諤などがいます。王諤は日本人のために描いた作品も残していることが知られています。また、宮廷画家であった倪端や戴進の弟子である夏芷も浙派に属します。後期には、開封出身の張路（1490-1563?）、鐘礼、蒋崇（1475-1565?）、鄭文林、汪肇、張復陽などが活躍しました。

16世紀後期以降、一部の文人批評家から「狂態邪學」と酷評された時期もありましたが、近年ではその独自性と高い芸術性が再評価されています。浙派の絵画は、室町時代の日本の水墨画や、李氏朝鮮の絵画にも影響を与えたとされています。

17世紀の画家藍瑛は、浙江省出身であったことから、しばしば浙派の代表とされますが、画風は浙派とは大きく異なっています。16世紀中頃には、浙派は衰退し、ほとんど消滅したとされています。

浙派の絵画は、そのダイナミックな筆致と、墨と余白の絶妙なバランスによって生み出される独特の世界観が魅力です。明代の中国絵画史において重要な位置を占める画派として、現在も高い評価を受けています。

もう一度検索