浮き雲 (映画)

アキ・カウリスマキ監督による1996年公開のフィンランド映画『浮き雲』（原題：Kauas pilvet karkaavat）は、1997年に日本でも公開された作品です。同監督の『過去のない男』『街のあかり』と続く“フィンランド三部作”の第一作であり、通貨危機に見舞われたフィンランドの社会状況を背景に、困難に立ち向かう人々の姿を描いています。

物語の中心となるのは、イロナとラウリという夫婦です。イロナは伝統的なレストラン「ドゥブロヴニク」で給仕長として働き、ラウリは市電の運転手として職に就いていました。しかし、不況の影響でラウリは解雇され、「ドゥブロヴニク」も大手チェーンに買収され、イロナも職を失います。

失業した中年夫婦は職探しに奔走しますが、簡単には仕事が見つかりません。イロナは小さな食堂でコック兼給仕の仕事に就きますが、給与の支払いを巡ってトラブルに巻き込まれ、結局給料を受け取れません。ラウリが食堂経営者に給料の支払いを求めたところ、暴行を受け、港に放り出されてしまうのです。

安宿で休養した後、帰宅したラウリは、家財道具を差し押さえられていることに気づきます。イロナはラウリの妹の家に身を寄せていました。ラウリは、イロナの元同僚メラルティンの助けを借りて新しい仕事を得ますが、そのメラルティンからレストランの開業を提案されます。

夫婦はレストラン開業を決意し、事業計画を立てますが、銀行から融資を受けることができません。ラウリは車を売ったお金をカジノで増やそうとしますが、全額を失ってしまいます。絶望的な状況に陥ったイロナでしたが、求職活動中に偶然にも「ドゥブロヴニク」の元経営者であるスヨホルム夫人と再会します。引退して生きがいを失っていたスヨホルム夫人は、イロナの計画に共感し、出資を決意するのです。

ラウリとメラルティンは、「ドゥブロヴニク」の元シェフでアルコール依存症に苦しむラユネンを探し出し、治療施設に入所させ、更生を支援します。そして、かつて「ドゥブロヴニク」で共に働いていた仲間たちが集まり、イロナとラウリの新しいレストラン「ワーク」が開店します。

開店当初は客足が伸び悩み、不安に襲われますが、やがて店内は満席となり、ディナーの団体予約まで入るようになります。成功を掴んだイロナとラウリは、店の前で空を見上げ、喜びを噛みしめるのでした。

この映画は、単なる経済危機を描いた物語ではなく、不況の中でたくましく生きる人々の姿、そして人間同士の温かい繋がりを描いたヒューマンドラマです。アキ・カウリスマキ監督独特のユーモラスな演出と、フィンランドの社会情勢への鋭い洞察が融合した、見応えのある作品となっています。また、本作は、公開の半年前に亡くなったアキ・カウリスマキ監督作品に数多く出演した俳優、マッティ・ペロンパーに捧げられています。1997年にはキネマ旬報外国映画ベストテン第3位にランクインするなど、高い評価を受けています。

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