海の聖母

『海の聖母』について

『海の聖母』（うみのせいぼ、伊: Madonna del Mare、英: Madonna of the Sea）は、1475年から1480年頃に制作された油彩の板絵です。この作品は、イタリア初期ルネサンスの巨匠であるサンドロ・ボッティチェッリ、またはフィリッピーノ・リッピのいずれかに帰属するとされていますが、その真の作者は確定していません。

来歴

この絵画は、もともとフィレンツェのサンタ・フェリチタ聖堂の修道院に所蔵されていました。しかし、ナポレオンによる修道院の廃止に伴い、フィレンツェ王立美術学校へ移管され、現在はアカデミア美術館に収蔵されています。この変遷は、作品が辿ってきた歴史的な背景を示唆しています。

作品の特徴

『海の聖母』は、過去の修復や上塗りにより、正確な鑑定が困難になっています。19世紀末には、ウルマンによってボッティチェッリの作品とされ、一方、ライトボウンはフィリッピーノ・リッピの作品と主張しました。さらに、ファイーはヤコポ・デル・セライオの名を挙げています。しかし、2003年には、ボスコヴィッツが改めてボッティチェッリの作品と見なしました。近年では、フィリッピーノ・リッピの作品カタログから除外されるなど、帰属をめぐる議論が続いています。

作品の名称は、背景に描かれた海景に由来しています。憂いを帯びた表情で物思いにふける聖母マリアが、膝に幼子イエスを抱いている姿が描かれています。聖母は、ボッティチェッリの作品によく見られる透明なヴェールを被り、赤い衣服の上に、肩の部分に彗星が刺繍された青いマントを羽織っています。幼子イエスは、開いたザクロを持ち、左手からはいくつかの麦粒が落ちています。ザクロは、聖母の受胎能力と女王としての地位を象徴しており、その赤い実はキリストの受難を暗示するものと解釈されます。また、海との関連は、聖母の称号の一つである「ステッラ・マリス（海の星）」に由来すると考えられています。

芸術的影響と制作背景

この作品には、ボッティチェッリの師であるフィリッポ・リッピを彷彿とさせる線描が認められます。同時に、アンドレア・デル・ヴェロッキオの影響を受けた、力強い彫塑性も見られます。1475年から1480年頃は、ボッティチェッリがフィリッポ・リッピの教えから離れ、ヴェロッキオの影響を受けながら、独自の画風を確立していく過渡期でした。『海の聖母』は、この時期のボッティチェッリの作風を理解する上で重要な作品の一つと言えるでしょう。

まとめ

『海の聖母』は、作者が特定されていないものの、その芸術的な価値は高く評価されています。この絵画は、聖母マリアの敬虔な姿と、ルネサンス美術の特徴である繊細な描写を兼ね備えており、見る者を魅了します。また、作品の帰属を巡る議論は、美術史研究の奥深さを物語っています。

参考文献

『ウフィツィ美術館展　黄金のルネサンス　ボッティチェリからブロンヅィーノまで』、東京都美術館、TBS、朝日新聞社、2014年
『アカデミア美術館　公認ガイドブック』、ジュンティ・グループ出版社 (フィレンツェ)、1998年
AA.VV., Galleria dell'Accademia, Giunti, Firenze 1999.

外部リンク

Catalogo generale dei Beni Culturaliサイト、ボッティチェッリに帰属『海の聖母』 (イタリア語)

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