海国兵談

海国兵談の概要

『海国兵談』は、江戸時代中期の著名な洋学者、林子平によって執筆された政論書です。この書物は全16巻からなり、1786年に完成し、1791年に刊行されました。林子平は1738年に生まれ、当時の海外事情や軍事戦略について深く研究しました。

林子平とその背景

林子平は洋学者との交流を通じて、海外の情勢に関する見識を深めました。特に1771年に来航したはんべんごろうが送ってきた書簡には、ロシアが日本に対して侵略を企んでいるとの警告が含まれており、林にとって大きな刺激となりました。この書簡を受けて、彼はロシアの南下政策による危機感を抱くようになり、国防の意義を強く訴えるようになりました。

海国兵談の主要な主張

本書において林は、日本が四方を海に囲まれた島国であることを踏まえ、外国勢力から国を守るためには、近代的な海軍力の充実が不可欠であると主張しています。そのためには、次のような施策が必要だと論じました。

1. 強力な海軍の創設: 林は、日本が安全を確保するためには、強力な海軍を整備する必要性があると説いています。特に、江戸が直接攻撃されるリスクを考慮し、江戸湾の防衛を強化すべきだとしました。

2. 沿岸砲台の建設: さらに、全国各地に沿岸砲台を設置し、敵からの攻撃に備える必要性も指摘しています。

3. 幕府権力の強化: 林は、強力な海軍のためには幕府の権威と財源を強化することが不可欠であると考えました。これにより、安定した国防体制が構築されると信じていました。

本書の出版とその影響

『海国兵談』の初版は、多くの書店での出版が難航しました。内容が幕府の軍事体制に対する批判を含んでいたため、当初の刊行目標であった1000部には達しないまま、自家蔵版として出版されました。1791年に39部が刊行された時、幕府からの指示で版木が没収され、林は自らの手で副本を作成しました。この副本が後世に伝わることとなります。

その後、林子平の提言と思想は、19世紀に入ると実際に江戸湾の海防政策を採用するきっかけとなり、近代日本の富国強兵論にも影響を及ぼしました。また、後の日本海軍の戦略家である佐藤鉄太郎の軍事思想にも、林の考え方が反映されることになります。

安政3年7月には、幕府から再刊の許可が下り、改めて林の意見が広く認識されることとなりました。『海国兵談』は、その後の日本の国防政策や海軍の発展において重要な役割を果たす作品となったのです。

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