海峡の光

海峡の光

『海峡の光』は、辻仁成による小説で、第116回下半期芥川賞を受賞した作品です。本作は、1996年12月号の「新潮」に初めて掲載されました。物語は、刑務所という特異な舞台を通じて、かつてのいじめっ子といじめられっ子の心の闇に光を当てています。

あらすじ

物語は、青森・函館間を結ぶ連絡船「羊蹄丸」の客室係だった主人公が舞台となります。彼は青函トンネルが開通したことで、船が廃航になり、その後、函館少年刑務所で刑務官として新たな生活を始めます。物語のスタートは、春から船舶教室の副担当官としての任務に入った彼の視点から進んでいきます。

ある日、彼のところに、18年前に小学校の同級生として過ごしたいじめっ子、花井修が逮捕され、函館少年刑務所に移送されてきます。主人公は、かつての辛い記憶がよみがえり、動揺を隠せません。花井はその頃、表向きは優等生として振る舞いながら、裏では志ある不良たちを操る存在でした。彼は、主人公に対して心理的ないじめを行っていました。

花井は、小学校を転校する際に和解を求める言葉を主人公に残して去りましたが、その言葉には主人公に強くなるようにとの期待と鼓舞が込められていました。しかし、花井が刑務所にいる間、その素行は模範的であり、彼は航海実習や船舶教室にも真剣に取り組む姿を見せます。

物語のクライマックス

ところが、彼は6級海技士の試験に失敗し、そのことで主人公は一時的に彼の未来に対して不安を覚えます。そして新しい年号が始まり、新天皇の恩赦によって花井は仮出獄を果たします。主人公は、過去の小学校時代をふと振り返りながら、雪降る中で彼を見送る場面があります。この時彼は自然に口に出して、「君は君らしさを見つけて、強くならなければ駄目だ」と言ってしまいますが、その瞬間、花井の反応が彼に強烈な衝撃を与えます。

また、初夏には主人公が花井の姿を見かけます。そこで彼が花畑の手入れをする姿に遭遇する瞬間、時間が止まったように感じられます。この描写は、主人公の心の内に抱える複雑な感情や人間関係の変化を象徴的に表しています。

登場人物

• - 〈私〉（斎藤）: いじめられっ子から成長を遂げた主人公。中学では空手、高校ではラグビーに取り組み、心身ともに強くなる。父を亡くし、母と共に生計を立てる苦労を感じながら成長した。
• - 花井修: かつてのいじめっ子であり、後に犯罪者となるが、出所を果たす青年。表向きには優等生を装っていたものの、自身の脆さや過去の影を背負っている。
• - 静: 留まることのない過去の痛みを抱えた女性で、主人公の周囲の人々にも影響を与える存在。

この小説は、いじめや恨みといったテーマを通じて、成長や再生の物語を描いています。また、登場人物たちの個々の背景や心情も繊細に描写され、読者に深い印象を与えます。

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