渡された場面

小説『渡された場面』

松本清張の長編推理小説『渡された場面』は、1976年に『週刊新潮』に連載され、同年11月に新潮社から刊行された作品です。本作は、並行する二つの状況がどのように繋がり、一つの筋になるのかを描いたミステリーです。テレビドラマ化は過去に3回行われており、数多くの視聴者に親しまれてきました。

あらすじ

物語は、玄界灘に面した漁港の町にある大旅館・千鳥旅館から始まります。作家の小寺康司は、そこで滞在しているところへ、女中の真野信子が関与します。信子は、小寺が外出している間に、その未完の原稿に好奇心を抱き、全文を書き写してしまいます。書き写しながら恋人の下坂一夫の役に立てればと考えていましたが、下坂は小寺の作品に対して陳腐だと感じている様子でした。

一方、四国の県警捜査一課長である香春銀作は、文芸誌を読みながら下坂一夫の名前に注目します。彼は、未亡人・山根スエ子の殺害事件に関する資料を目にし、その中に下坂の作品の一部と非常に似た内容が含まれていることに気付くのです。香春は、下坂がこの事件に何らかの関与をしているのではないかと考え、その確認をするために接触を試みますが、事気軽には進みません。

登場人物

この小説には多彩なキャラクターが登場します。まず香春銀作は、文学を愛し、県警内の同人誌にも作品を投稿している捜査一課長です。彼は著者松本清張の文学への愛情を色濃く反映しています。下坂一夫は、唐津で同人誌『海峡文学』に作品を投稿している29歳の作家志望で、抽象的な文学理論にこだわっている性格です。真野信子は、千鳥旅館の女中で、下坂の恋人として物語に深みを与えています。

他にも、漁船員である古賀吾市や、バーで働く景子、そして県警の越智達雄といった人物たちが、事件の解明に向けた重要な役割を果たします。

エピソード

佐野洋氏は、作中の証人の供述に耳を傾ける場面が、過去の松山事件に言及していると指摘し、著者がその調書に深い関心を持っていたのではないかと推測しています。このように、本作の背後にはリアルな事件が影を落とし、読者の興味を引く要素が数多く存在します。

文化的背景

『渡された場面』の舞台は現実の呼子町がモデルとされており、実在する旅館「金丸」が千鳥旅館のモデルとなっています。同じく、本作に登場する地名には実在しないものも多く、松本清張ならではのフィクションの世界が展開されています。

テレビドラマ化

本作は1978年、1987年、2005年の3回にわたりテレビドラマ化されています。1978年版はテレビ朝日で放送され、全4回の連続ドラマとして展開されました。1997年版では、埼玉県秩父市を舞台にするなど、ストーリーが改編されています。そして最新の2005年版では、県警捜査一課長の香春が中心となるストーリーが特徴です。各版ともキャストやスタッフが異なり、作品ごとに新たな解釈が加えられています。

『渡された場面』は、松本清張の英知が詰まった作品であり、キャラクターやプロットの緻密さが高く評価されている長編ミステリーです。

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