渡辺ケン

渡辺ケン：フィリピンを舞台に活躍した謎多き映画人

渡辺ケン（生没年不明）は、1980年代から1990年代初頭にかけて、フィリピンを拠点に活動した日本人映画人です。俳優、監督、脚本家、そして製作者として、多岐にわたる才能を発揮しました。同姓同名の俳優、渡辺謙とは別人であり、インターネット・ムービー・データベースでは「ケン・ワタナベ（ll）」と区別されています。

俳優としての活躍

渡辺ケンは、数々のB級アクション映画で強烈な印象を残しました。特に、以下の作品における役柄は特筆すべきでしょう。

旧日本軍将校役:『サバイバル・ジャングル/失われた黄金』（1982年）、『ザ・ゴールデンコブラ』（1983年）では、旧日本軍の将校を演じ、その存在感を示しました。これらの作品は未公開ですが、ビデオ発売されており、マニアの間で知られています。
悪役忍者役:『ニンジャ・フォース』（1986年）などの忍者映画では、悪役忍者として独特なアクションを披露しました。
師範役:『カラテ・キッド』（1986年）では、師範役を演じました。1987年の続編『カラテ・キッド/激闘篇』では、前作の映像が流用されています。
ベトナム将軍役:『コマンドー・インベイジョン』（1985年）では、ベトナム将軍を演じ、その悪役ぶりで観客を魅了しました。

これらの作品は、いずれも未公開ではあるものの、ビデオ発売を通じて、一部のファンから熱狂的な支持を得ています。

監督・製作としての活動

渡辺ケンは、俳優業だけでなく、原案や脚本も手掛け、自ら監督や製作にも携わるようになりました。1987年には、大陸書房と合作したVシネマ『サンドー/地獄の勇者』で監督デビューを果たし、製作も担当しました。この時期には、マニラに自身の映画製作会社「ワタナベ・フィルム・カンパニー」を設立しています。

翌1988年には、『地獄へのパスポート』も監督しましたが、これらの作品はフィルムではなくビデオ撮影でした。1991年には、ベトナム戦争を題材にした『ブルドッグ』を製作、監督、脚本し、スケールアップした作品に仕上げています。この作品は、彼のキャリアの集大成とも言え、日本でも劇場公開されました。倉田保昭も出演しており、今なおカルト的な人気を誇ります。

1990年頃からは出演が途絶え、製作に専念するようになりました。和田勉監督による日本とフィリピンの合作映画『ハリマオ』（1988年）でも製作としてクレジットされています。また、『ブルドッグ』で主演を務めたロマーノ・クリストフが製作管理を担当し、フィリピンの名匠エディー・ロメロもスペシャル・サンクスとしてクレジットされていました。

さらに、東映と合作したVシネマ『暗黒街の勲章/マニラ極道戦争』（1991年）、『マニラエマニエル夫人』シリーズ（1992年）なども製作しています。この流れで、東映が製作した劇場映画『極東黒社会』（1993年）では、フィリピン撮影パートのロケーション監督を担当し、派手な爆発シーンを演出しました。これらの東映作品には、渡辺の盟友であるクリストフやロバート・マリウスらが出演しており、彼らは「フィリピン・アクション・ギャング」と呼ばれています。

謎に包まれたキャリア

渡辺ケンの作品は、日本にもビデオなどで輸入されていますが、そのキャリアには不明な点が多く残されています。2011年に発売された『ブルドッグ』のDVD特典音声では、製作総指揮を務めたディック・梶原（映画評論家の梶原和男）が、「彼はマニラの名誉市民だった」「彼は亡くなった」という証言をしていますが、音声が非常に聞き取りづらく、詳細は不明です。

未公開作品は、過去にビデオ発売されているものが多く、熱心なファンによってその存在が語り継がれています。彼のフィルモグラフィには、以下の作品が含まれます。

フィルモグラフィ

『ブルースの血の復讐』（1980年/未ソフト化）
『楽園の動物』（1982年/未ソフト化）
『サバイバル・ジャングル/失われた黄金』（1982年/未/ビデオ）
『ザ・ゴールデンコブラ』（1983年/未/ビデオ）
『デス・オブ・ザ・ニンジャ/地獄の激戦』（1984年/未/ビデオ/テレビ放映）
『ニンジャ・フォース』（1984年/未/ビデオ）
『コマンドー・インベイジョン』（1985年/未/ビデオ）
『ニンジャ・ウォリアーズ』（1985年/未/ビデオ）
『ニンジャ刑事/ダブルエッジ』（1985年/未/ビデオ）
『カラテ・キッド』（1986年/未/ビデオ）
『ザ・コマンダー/死からの脱出』（1987年）
『サンドー/地獄の勇者』（1987年/Vシネマ）
『地獄へのパスポート』（1988年/Vシネマ）
『レディ・コマンドス』（1988年/未ソフト化）
『ハリマオ』（1988年）
『カラテ・キッド/激闘篇』（1988年/未/ビデオ）
『名誉の法則』（1988年/未ソフト化）
『バイオレント・ゾーン/野獣の標的』（1989年/未/ビデオ）
『暗黒街の勲章/マニラ極道戦争』（1991年/Vシネマ）
『ブルドッグ』（1991年）
『マニラエマニエル夫人/魔性の楽園』（1992年/Vシネマ）
『マニラエマニエル夫人/危険な楽園』（1992年/Vシネマ）
『極東黒社会』（1993年）
『サディスティックマーリヤ』（1993年/Vシネマ）
* 『湾岸ミッドナイト・ファイナル/GTR伝説ACT2』（1994年/Vシネマ）

これらの制作年は、過去に発売されたソフトのジャケット記載に準拠しており、インターネット・ムービー・データベースとは異なる場合があります。渡辺ケンの作品は、未公開作品が多いものの、その独特な世界観とアクション演出が一部の映画ファンを魅了し続けています。彼のキャリアは謎に包まれていますが、その作品は今もなお、カルト映画として語り継がれているのです。

もう一度検索