温海かぶ

温海かぶ（あつみかぶ）

温海かぶは、山形県鶴岡市の温海地域に位置する山間部で栽培される、歴史あるカブです。この特産品は江戸時代から栽培され、天明5年（1785年）には当時の将軍である徳川家治に漬物が献上された記録があります。専用の焼畑農法によって栽培され、主に甘酢漬けとして利用されているのが特徴です。

概要

このカブは西洋系に属し、さまざまな種苗会社から固定種の種子が販売されています。加えて、生産者の自家採種により栽培されることも一般的です。この場合、温海かぶとして流通するものの中には、自然交雑により純粋な品種でない「赤かぶ」に分類されるものも見受けられます。そのため、「温海かぶ」と名乗って販売するためには、固定種の種子を使用することが求められます。

外見は赤紫から紫色で、中身は白色をしており、特に漬物に加工される際には、酢の影響で色が変わり赤紫やピンク色になります。温海かぶの名は、1598年に成立した一霞村の古文書にも登場しており、その栽培の歴史は非常に古いものです。昭和45年頃からは田川地域でも少連寺地区を中心に栽培が広まったため、現在では庄内地域全体で取引されるようになりました。また、鶴岡市藤沢地区で栽培されている藤沢かぶは、温海かぶから選別されたもので、明治時代からの歴史を持ちます。このカブは細長い形状をしており、上半分が赤紫、下半分が白いですが、生食用の入手は難しいのが現状です。

東北地方において焼畑で栽培されるカブは、「火野カブ」と呼ばれ、秋田県のにかほ市などにも同様のものが存在します。温海かぶの特性を活かすため、「焼畑温海かぶブランド力向上対策協議会」が設立され、登録商標として「焼畑あつみかぶ」が取得されるなど、他の温海かぶとの違いを明確にし、ブランド化が進んでいます。

この焼畑農法は、環境破壊的だと見なされがちですが、温海かぶを含む火野カブの栽培は、林業から得られるサステナブルな方法で行われています。林木の伐採後、残った土に下草が繁茂し、これを刈り取って焼くことでカブの栽培場所が作られます。収穫後の土地は春になると自然に山菜が育ち、その後には苗木が植えられ、再び森として育成されます。

漬物としての温海かぶ

温海かぶは扁平で丸い形状を持ち、表面は赤紫色で中身は白色です。現在では主に甘酢漬けとして楽しまれており、その興味深い背景には1970年代に入るまで家庭で広く作られていたことがあります。江戸時代や戦争の影響で貴重だった砂糖や酢を使うことができなかった時期には、味噌漬けが主流でした。1970年代から1980年代にかけては家庭でも作られていましたが、次第に甘酢漬けにシフトし、今ではアバ漬けはほとんど作られなくなっています。地元の原材料としては庄内柿や塩、味噌などが使用されていますが、各家庭ごとに製法が異なるため、味わいもさまざまです。

2015年の秋からは「アバ漬け復活プロジェクト」がスタートし、地域住民や旅館が協力して昔ながらの味付けを再現する取り組みが進められています。

栽培方法

温海かぶは主に伐採した山林の跡地を利用して栽培され、特に水はけの良い斜面が選ばれます。水田の畦畔部分や過去に使われていた畑も時折使用されますが、排水性が悪い場合は質が劣るとされています。以下に、一般的な栽培日程を示しますが、天候などの条件により、前後することがあります。

• - 7月中旬〜下旬：繁茂した下草を刈り取り、放置して乾燥。
• - 8月上旬〜中旬：下草に火をつけ焚き、温まった土に播種。
• - 10月上旬〜：収穫開始。

播種は溝を作って、筋まきで行います。本葉が出始めた段階で間引き、成長に応じて数回の間引きが実施されます。カブの一部が地面から出たところで収穫を開始し、早い時期には焼畑から1か月程度で取れるようになりますが、12月の初旬まで継続して収穫されることが一般的です。播種から収穫までの間は一般的に肥料は与えず、間引き作業のみが行われます。ただし、播種後数日内に降雨がないと発芽が難しく、天候が続く場合は散水も行う必要があります。

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