満洲産業開発五カ年計画

満洲産業開発五カ年計画とは

満洲産業開発五カ年計画は、1937年（昭和12年）4月から満洲国で開始された経済開発計画であり、日本の統制経済と密接に連携していました。この計画は、満洲事変後の満洲国における経済建設の第2段階として位置づけられ、日本の対ソ連戦略を支える軍需物資の生産拠点としての役割を担うことが期待されていました。

計画策定の背景

満洲事変後、日本は満洲国の経済建設に着手し、南満洲鉄道（満鉄）に経済調査会を設立して各種立案業務を行わせました。その結果、「満洲国経済建設要綱」が策定され、多くの特殊会社が設立されました。これらの会社の設立には、政府と満鉄からの出資が充てられました。また、関東軍特務部が作成した「日満経済統制方策要綱」により、日本と満洲国の経済統制方針が打ち出されました。

参謀本部作戦課長の石原莞爾は、満鉄に「日満財政経済研究会」を組織させ、軍需産業拡充計画を立案させました。石原は、満洲国を対ソ戦準備のための軍需品生産拠点とすることを目指し、陸軍省も「満洲開発方策要綱」を決定しました。これを受けて関東軍も「満洲国第2期経済建設要綱」を提出し、日満共同防衛体制の確立を目指しました。

計画の内容

満鉄「日満財政研究会」の案をもとに、関東軍、満洲国政府、満鉄の関係者による協議を経て、1937年1月に計画要綱が確定し、同年4月から計画が開始されました。計画の目標は、有事の際に必要な資源を現地で開発し、満洲国内の自給自足と日本の不足資源の供給を図ることにありました。これは、対ソ戦の経済基盤を構築することが目的でした。

計画は、鉱工業、農畜産業、交通通信、移民の4部門に分かれ、それぞれ詳細な目標が立てられました。鉱工業では、兵器、飛行機、自動車などの軍需産業の確立と、鉄や液体燃料の開発が重点的に進められました。1941年度の生産能力目標は、鉄鉱石、石炭、製鉄、液体燃料、兵器などで、開始時に比べて2～5倍に設定されました。

計画に必要な資金は総額約25億8000万円であり、鉱工業部門だけで約13億9000万円という巨額に達しました。資金調達のため、政府と軍部は財閥を中心とする経済界に働きかけ、長期資金の提供を任務とする満洲興業銀行を設立しました。

計画の拡大と後退

日中戦争の勃発により、計画は拡大を余儀なくされました。日本からの対満要求が強まり、鉱工業部門を中心に目標値が大幅に引き上げられました。しかし、日中戦争の長期化により、計画の実現に必要な資金や資材の供給が困難となり、計画に矛盾と混乱が生じました。1940年度からは「徹底的重点主義」に移行し、鉄鋼や石炭の増産に集中する一方で、他の部門は縮小または中止されました。この段階で計画は、生産力の拡充という本来の目的を失い、現有設備での最大の生産をあげるという増産の強行にすぎなくなりました。

計画の終焉と影響

満洲産業開発五カ年計画は、総力戦体制構築という外的要因によって満洲国に押し付けられたものであり、経営効率は悪く、日本経済にとっても大きな負担となりました。1940年代になると、この方向は半ば放棄され、満洲国自体も「大東亜共栄圏」における食料供給基地という位置付けになっていきました。

満洲産業開発五カ年計画は、日本の大陸進出政策の一環として行われた経済開発計画であり、その失敗は日本の帝国主義政策の限界を示すものでした。

もう一度検索