滝脇信敏

滝脇信敏：民を愛した藩主の生涯

滝脇信敏は、江戸時代後期の動乱期から明治維新へと続く激動の時代を生きた大名です。幼名は信敏。彼は当初、松平姓を名乗り、駿河国小島藩の11代藩主として家督を継ぎました。14歳という若さで藩主の座に就いた彼は、近隣の庶民に教育の機会を広く提供することに尽力し、藩庁内に学舎を設け、常時勉学できる環境を整えたと伝えられています。これは、当時の大名としては異例で、民衆への深い愛情と理解を示す行動であったと言えるでしょう。

小島藩主時代、信敏は庶民的な殿様として知られていました。これは、彼が常に民衆と寄り添い、彼らの暮らしや生活に気を配っていたことを示唆しています。藩政においても、民衆の生活向上に資する政策を積極的に推進していた可能性が高いでしょう。

しかし、彼の治世は平穏なものではありませんでした。幕末期の動乱において、信敏は当初は徳川幕府側に与していました。慶応3年（1866年）の大政奉還後、佐幕派諸藩主による上申書に連名し、旧幕府への忠誠を表明しています。しかし、その後、状況の変化に伴い、信敏は官軍に勤皇の証書を提出、倒幕派へと転じました。この決断は、時代の流れを見極め、藩の存続と民衆の安寧を最優先した結果であったと推測できます。

慶応4年（1868年）、信敏は東海道における官軍兵の食料調達や警備といった重要な役割を担いました。戊辰戦争においては、甲府への援兵派遣など、軍事面でも貢献しています。同年7月には、徳川家達の駿河府中への転封に伴い、彼自身も上総国に転封され、桜井藩主となりました。桜井藩主として治水工事に尽力するなど、地域社会の発展にも貢献しました。

明治2年（1869年）、信敏は松平姓から滝脇姓へと改姓しました。これは、維新後の新しい時代への対応、そして自身の新たな歩みを示す象徴的な出来事であったと考えられます。明治4年（1871年）の廃藩置県により桜井藩は廃藩となりましたが、信敏はその後も公職に就き、明治12年（1879年）には沖縄県御用掛に任命されるなど、政府に貢献しました。明治17年（1884年）には子爵に叙せられ、華族として認められました。

37歳という若さでこの世を去った滝脇信敏ですが、彼の短い生涯は、民を愛し、時代と共に変化を遂げ、常に社会のために貢献しようとした人物像を強く印象付けます。小島藩、桜井藩での施政、そして維新後の活躍を通じて、彼は時代を生き抜いた大名として、そして民衆に寄り添った藩主として、後世に名を残すこととなりました。彼の治世や行動は、現代においても学ぶべき点が多く、歴史研究において重要な資料となっています。彼が残した功績は、現代の地域社会の発展にも繋がっており、歴史上の人物としてだけでなく、地域社会を支えた人物として、高い評価に値するでしょう。

参考文献

『大里村誌・下巻（2）』
『大里村誌・下巻（三）』
* 『三百藩戊辰戦争事典 上』（新人物往来社、2000年、P292）

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