漂流郵便局

漂流郵便局

漂流郵便局（ひょうりゅうゆうびんきょく）は、日本のアーティスト、久保田沙耶が手掛けたユニークなアートプロジェクトである。香川県三豊市にある旧粟島郵便局の施設を使用したこの作品は、「宛先不明の手紙が集まる郵便局」というコンセプトのもとに開設された。このプロジェクトは、2013年の瀬戸内国際芸術祭において初めての展示が行われ、以来、さまざまな手紙が寄せられる場所として注目を集めている。

プロジェクトの背景

漂流郵便局は、元々1964年に設立され、1991年まで使用されていた旧郵便局を改装して開局された。久保田はこの場所を訪れた際、窓に自分の姿が映るのを見て深い感銘を受け、「流れ着いた」と感じ、アート作品としての素晴らしさを見出したのだ。こうして誕生した漂流郵便局は、訪れた人々に感情や思いを手紙として託す場所として機能している。

手紙の受け付け

漂流郵便局には、さまざまな住所宛に届けたくても届けられない手紙が届く。故人、未来の子孫や自分自身、さらには伝えられなかった思いを託けた初恋の相手など、手紙の内容は多岐にわたる。特に故人へ宛てた手紙が多く見受けられ、それぞれの人が交わり合う思いが形となって集まっている。手紙は「漂流郵便局留め」として送付され、宛先に差出人名を書く必要はない。このスタイルは、書かれた気持ちが重要であるという考え方に基づいている。また、手紙は封筒ではなく、はがきでの提出が奨励されている。

手紙が届くと、それらは特別に設計された「漂流私書箱」に保管される。この私書箱は、ブリキ製で100個あり、様々な形で宙に漂っている。手紙が宛先不明であるため、ストックしておくことができないというコンセプトのもと、設計されたこの私書箱には、回転させると波の音が聞こえる仕掛けも施されている。これは、手紙の中に込められた思いや感情をさらに深めるための機能である。

利用方法と開局時間

粟島へのアクセスは、三豊市詫間町の須田港から定期船を利用し、約15分の距離にある。この島には公共交通機関がないため、徒歩やレンタサイクルが主な移動手段となる。漂流郵便局は、毎月第2および第4土曜日の13時から16時まで開局される。この日には、通常、中田勝久が局長として在籍し、久保田は不定期に局員として参加する。

届いた手紙は「アート作品」として扱われ、誰でも目にすることができる。しかし、どの私書箱にどの手紙が入っているかの把握は局員でも不可能であり、様々な人の思いが交差する場所となっている。手紙が自分宛てだと思った場合には、持ち帰ることも可能である。また、局内では、漂流郵便局宛ての手紙を執筆できる「投函セット」が販売されており、訪問者が思いを込めて手紙を書くこともできる。

漂流郵便局の歴史

2013年の開局以来、漂流郵便局には多くの手紙が寄せられ続けている。初めの一か月で集まった手紙は約400通にのぼり、その後も月に200通以上のペースで届くようになった。2014年には、手紙の総数が1500通を超え、同年中には初めての島外への出張開局、さらには出版も行われ、さらなる広がりを見せている。

演出や活動が多岐にわたる中、漂流郵便局は訪れる人々にとって、思いを届け、感じ合い、共感する場として新しい形のアートの在り方を示している。漂流郵便局は、単なるアート作品にとどまらず、人々の感情や歴史の交差点となり、今なお多くの人々に親しまれている。

もう一度検索