演劇検閲法

イギリスにおける演劇表現の規制を巡る歴史において、1737年制定の演劇検閲法(Licensing Act 1737)は重要な役割を果たしました。この法律は、劇場における表現内容を厳しく管理することを目的として制定され、イギリス演劇史に大きな影響を与えました。

それ以前は、宮内長官(Lord Chamberlain)が演劇の内容を検閲する権限を持っていましたが、本法の制定により、演劇調査部(Examiner of Plays)が設置され、宮内長官を補佐する体制が整えられました。これにより、1737年から1968年までの長きに渡り、上演される全ての戯曲が検閲されることとなりました。

演劇調査部は、上演を希望する劇団から提出された戯曲原稿を綿密に審査しました。そして、内容を精査した上で、上演の可否に関する要旨を宮内長官に提出し、上演許可の推薦を行うという重要な役割を担っていました。検閲の基準は時代や政治情勢によって変化しましたが、おおむね政府や王室への批判、社会秩序を乱す可能性のある内容、公序良俗に反する表現などが禁止の対象とされました。

検閲対象となった戯曲は多岐に渡り、シェイクスピアの戯曲の一部も例外ではありませんでした。時代劇、喜劇、悲劇、ミュージカルなど、あらゆるジャンルの演劇作品が、検閲官によって厳しく審査され、修正を求められたり、上演禁止とされたりした事例が数多く存在します。この検閲制度は、演劇界に大きな制約をもたらした一方で、表現の自由と社会秩序の維持という相反する課題のバランスを保つための試みでもありました。

演劇検閲法は、その後も何度か改正されました。1843年のTheatres Act 1843、そして1968年のTheatres Act 1968です。これらの改正によって、検閲の対象や基準、手続きなどが変更され、徐々に緩和されていきました。特に1968年の改正は、検閲制度そのものの廃止につながる重要な転換点となりました。この改正によって、演劇界は長年の検閲から解放され、表現の自由が大きく拡大しました。

演劇検閲法は、イギリス演劇史における重要な出来事です。この法律の制定と、その後の改正、そして最終的な廃止のプロセスは、表現の自由と社会秩序の維持という、常に葛藤する二つの価値観の間で揺れ動いたイギリス社会の姿を象徴的に示しています。現在、イギリスでは演劇は自由な表現の場として広く受け入れられていますが、その自由は、かつて厳格な検閲制度によって守られてきた歴史の上に成り立っていることを忘れてはなりません。

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