漢江の戦い (1950年)

漢江の戦い（1950年）

漢江の戦いは、1950年6月28日から7月3日にかけて、朝鮮戦争初期に漢江を挟んで繰り広げられた、韓国軍と北朝鮮軍（朝鮮人民軍）による激しい戦闘です。この戦いは、ソウル陥落後の韓国軍が、北朝鮮軍の南下を食い止めるために展開されました。

戦闘の経緯

1950年6月25日、北朝鮮軍の奇襲侵攻により朝鮮戦争が勃発しました。開戦からわずか3日後の6月28日には、韓国の首都ソウルが陥落し、韓国軍は漢江以南への撤退を余儀なくされました。撤退の際、漢江の人道橋が爆破されたため、韓国軍の多くが重装備を漢江北岸に取り残されてしまいました。撤退計画が事前に立てられていなかったことも、混乱に拍車をかけました。

漢江を渡って撤退する韓国軍は、小銃のみを携行し、筏や渡し船で小部隊や個人単位で渡河しました。度重なる戦闘と撤退により、兵士たちは極度に疲弊し、部隊は著しく縮小しました。さらに、漢江橋の爆破により、補給物資や車両が北岸に取り残されたことも、韓国軍の戦力を大きく低下させる要因となりました。指揮系統の混乱や通信の途絶も、部隊間の連携を困難にしました。

一方、北朝鮮軍はソウルを占領したものの、韓国政府が大田に移動し、韓国軍の抵抗が続いていたこと、国連軍が介入してきたことで、当初の作戦計画を修正しました。そして、米軍の本格参戦前に漢江を渡河し、韓国軍を撃破することを目標に、第二次作戦を開始しました。北朝鮮軍は、6月30日に漢江渡河作戦を開始し、第3師団と第4師団がそれぞれ渡河の準備を進めました。

参加部隊

韓国軍

• - 始興地区戦闘司令部
• - 混成首都師団
• - 混成第7師団
• - 混成第2師団
• - 歩兵学校混成連隊
• - 混成第3師団
• - 第1師団
• - 金浦地区戦闘司令部
• - 陸軍報国大隊
• - 陸軍歩兵学校候補生大隊
• - 陸軍南山学校
• - 陸軍工兵学校学生の一部

北朝鮮軍

• - 第1軍団

- 第1師団
- 第3師団
- 第4師団
- 第6師団
- 第105戦車旅団

戦闘の経過

6月28日

韓国軍は、後退部隊の収容と再編成を開始しました。金弘壹少将が始興で司令部を編成し、部隊を収容・再編。アメリカ軍の顧問官も合流し、アメリカ極東軍との連絡を図りました。この日、韓国軍は「漢江を3日間守る」ことを目標としました。各師団は、漢江の渡し場に重点を置き、防御体制を構築しました。しかし、北朝鮮軍は渡河を急がず、散発的な砲撃にとどまりました。

6月29日

マッカーサー元帥が水原を訪問し、漢江を視察しました。北朝鮮軍は本格的に砲撃を開始し、威力偵察を実施しました。韓国軍は、混成師団をもって陣地配備を行いましたが、兵力や装備は不足していました。また、指揮系統も不備があり、各部隊が連携して戦うことが困難でした。夜には、北朝鮮軍が偵察隊を派遣し、渡河の足場を築き始めました。

6月30日

未明から北朝鮮軍の砲撃が始まり、一部部隊が渡河して橋頭堡を確保しました。しかし、韓国軍の抵抗やアメリカ空軍の支援により、北朝鮮軍の渡河は阻止され続けました。金浦方面では、韓国軍と北朝鮮軍の間で激しい争奪戦が繰り広げられました。

7月1日

北朝鮮軍は汝矣島への渡河を試みましたが、韓国軍の抵抗によって阻止されました。マルチュクコリ一帯では、北朝鮮軍が突破を試みましたが、韓国軍も必死に抵抗しました。混成第7師団は、人民軍の攻勢により司令部を安養に後退させました。陸軍参謀総長丁一権少将は、混成首都師団と混成第7師団の退路を確保するため、マルチュクコリ-水原線の死守を指示しました。

7月2日

人民軍第4師団は、飛行場を占領しようとしましたが、韓国軍の抵抗に遭い、汝矣島方面は小康状態となりました。マルチュクコリ一帯では、人民軍が渡河に成功し、韓国軍の阻止線を突破しました。予備であった歩校連隊が、板橋に向かう人民軍の補給を遮断し、南進速度を遅らせることに貢献しました。

7月3日

人民軍は、京釜線鉄橋から戦車を渡河させ、永登浦方面に迂回しました。さらに、列車で戦車と部隊を南岸に進出させました。北朝鮮軍は、汝矣島と鷺梁津一帯を制圧し始めました。韓国軍は包囲されたものの、市街戦を展開しましたが、金弘壹少将は撤退命令を下しました。

戦闘の影響

漢江防御線が崩壊したことで、韓国軍は各部隊ごとに分散し、撤退を余儀なくされました。しかし、この戦いは、韓国軍が1週間も持ちこたえ、北朝鮮軍の進撃を遅らせた点で、その後の戦局に大きな影響を与えました。米軍地上部隊の展開を支援し、連合戦線を形成する時間稼ぎに貢献したと評価されています。韓国軍の砲兵の活躍も目覚ましく、正確な射撃で北朝鮮軍を苦しめました。また、米空軍の迅速な介入も、韓国軍の戦意を高める重要な要素となりました。

一方、北朝鮮軍はソウルを占領したにもかかわらず、渡河作戦を迅速に実行せず、橋の確保を怠ったため、渡河の遅れを招きました。また、偵察活動の不備や情報共有の欠如も、北朝鮮軍の作戦遂行を妨げました。

漢江の戦いは、朝鮮戦争の初期における重要な戦いであり、韓国軍が組織的な抵抗を示し、米軍の参戦を可能にしたという意味で、大きな意義を持つ戦いでした。

もう一度検索