瀬尾重治

瀬尾 重治

1957年、岡山県倉敷市に生まれた瀬尾重治は、日本の水産学者であり、水産学博士です。長年にわたり、特に熱帯・亜熱帯地域における水産養殖技術の開発と普及に貢献し、国際的な視点から途上国の水産業振興を支援してきました。現在は近畿大学の教授を務め、マレーシアのサバ大学ボルネオ海洋研究所の客員教授も兼任しています。

学歴と初期のキャリア

瀬尾氏は1980年に近畿大学農学部水産学科を卒業後、同大学の水産研究所に籍を置きました。その後、国際協力の道に進み、1981年には青年海外協力隊員としてザンビアへ赴任。現地の水産局で活動を開始しました。このザンビアでの経験は、後のキャリアの方向性を定める重要な一歩となります。1985年からは国際協力事業団（JICA）の専門家として、再びザンビアで水産養殖分野に携わりました。

マレーシアでの長年の活動と研究成果

1988年からはJICA専門家としてマレーシアに移り、マレーシア農科大学（現：プトラ大学マレーシア）海洋水産学部での活動を始めました。この間、1993年にはマレーシア農科大学大学院で海洋水産学の修士号を取得し、さらに1995年には鹿児島大学大学院連合農学研究科より論文博士（水産学）の学位を授与されています。

マレーシアでは、特に熱帯性の重要な養殖対象種の人工種苗生産技術の開発に尽力しました。その代表的な成果の一つが、1990年に達成したマーブルゴビーの人工種苗生産技術の世界初の成功です。これは、現地の水産資源保護と養殖産業の発展に大きく貢献しました。また、アカメや各種ハタ類（サラサハタ、アカマダラハタなど）といった高級魚の人工種苗の大量生産技術を確立し、商業養殖を可能にしました。その他、アフリカナマズやコイ類など、現地の食料安全保障に関わる魚種の人工種苗生産技術も開発・普及させています。

単に技術を開発するだけでなく、その実用化と普及にも力を入れました。例えば、熱帯環境での餌料生物の安定培養という課題に対し、ティラピアの飼育排水を利用したワムシの大量培養法を確立するなど、現地の状況に即した独創的な手法を導入しました。また、ハタ類を中心に、成長や形質に優れた雑種の開発にも成功しています。

国際協力プロジェクトと人材育成

瀬尾氏は技術開発と並行して、途上国の水産関連インフラ整備や人材育成にも深く関わりました。ザンビアやマレーシアでは、養魚場や孵化場の建設計画の立案、設計、修復、拡充プロジェクトの実施に携わりました。これらの施設は、開発された技術を現地で実践し、普及させるための拠点となりました。

特にマレーシア・サバ大学では、ボルネオ海洋研究所の助教授、教授を歴任し、同大学と近畿大学、京都大学との学術協力協定締結を推進しました。また、サバ大学の「水産増養殖学コース」の学生が日本で卒業実習を行うプログラムを計画・実施するなど、次世代の研究者・技術者の育成に情熱を注ぎました。近畿大学・サバ大学共同セミナーの開催なども、学術交流と人材育成の重要な機会となっています。

現在の活動と評価

2015年からは近畿大学の教授として、また近畿大学・サバ大学養殖開発センターの事業場長として、マレーシアとの連携を継続・発展させています。同時に、マレーシア・サバ大学ボルネオ海洋研究所の客員教授も務め、両国の研究・教育協力の橋渡し役を担っています。

その長年の功績は国内外で高く評価されています。マレーシア・サバ大学からは創立十周年記念の学長賞（優秀教官賞）を2年連続で受賞しました。また、2023年には、開発途上国における水産養殖技術の開発と普及を通じた国際協力への多大な貢献が認められ、令和5年度の外務大臣表彰を受賞することが決定しました。瀬尾氏の活動は、科学技術の力で世界の食料問題や貧困問題の解決に寄与するという、国際協力の理想的なモデルの一つと言えるでしょう。国内外の学会でも活発に活動しており、日本水産学会など複数の学会に所属しています。

長年にわたり、現場での実践に基づいた技術開発と、それを普及させるための施設整備、そして何よりも人々の育成に尽力してきた瀬尾重治氏の業績は、世界の水産養殖分野、特に開発途上国の持続可能な発展に計り知れない貢献をしています。

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