瀬川美能留

瀬川美能留：日本の証券界に名を刻んだ実業家

瀬川美能留（1906年3月31日 - 1991年9月10日）は、20世紀日本の証券業界において重要な役割を果たした実業家です。奈良県出身で、大阪市立大学（旧制大阪高等商業学校）卒業後、野村證券に入社。営業畑を歩み、卓越した手腕で頭角を現しました。戦後の混乱期においても、その才能は遺憾なく発揮され、野村證券の社長、会長の座に上り詰めます。

野村證券での活躍：戦後復興から業界トップへ

野村證券入社後、瀬川は営業担当者として早くからその能力を認められました。1946年には取締役、その後常務、専務を経て、1959年には社長に就任。社長在任中の1965年には、野村総合研究所を設立するなど、企業の成長に大きく貢献しました。

特に注目すべきは、戦後日本の電力会社再建に大きく貢献した点です。戦争によって壊滅的な打撃を受けていた九州、中国、関東の配電会社（現在の電力会社）の増資を引き受け、業界の注目を集めました。大手証券会社が二の足を踏む中、瀬川は果敢に名乗りを上げ、関東配電会社の主幹事を務め、見事な手腕で増資を成功に導きました。この成功は、野村證券を業界トップへと押し上げる大きな転換点となりました。個人顧客への販売戦略も展開し、従来のしがらみに囚われない独自の営業基盤を構築した点も特筆されます。

大胆な経営判断とGHQへの対抗

瀬川は、常に大胆な経営判断で知られていました。GHQによる統治下においては、GHQの金融専門官であるトーマス・アダムスを批判し、日本の証券取引所の独立性を主張しました。また、当時の金融界を牛耳っていた銀行を敵視し、証券業界の首位のみならず、銀行を超えることを目指しました。1962年の株価暴落時には、保有株式の全売却という大胆な決断を行い、野村證券を危機から救っています。

証券界への影響と晩年

瀬川は、野村證券社長、会長の職務に加え、日本証券業協会連合会会長なども務め、証券業界全体の発展にも貢献しました。また、瀬川学術振興基金を設立し、大阪市立大学証券研究センターの支援を行うなど、教育・研究面への貢献も著しく、幅広い活動で日本の経済界に大きな影響を与えました。1978年に野村證券取締役相談役に退任後も、最高顧問として企業を支え続けました。1991年9月10日、85歳で死去しました。

人物像

瀬川美能留は、「営業の鬼」と呼ばれたほどの行動力と決断力を持つ一方で、鋭い洞察力と戦略的な思考力も兼ね備えていました。GHQという強大な権力に対しても臆することなく、自らの信念を貫き通す強さを持っていました。彼の行動は常に時代を先読みし、リスクを恐れない姿勢が、野村證券の成長、ひいては日本の証券業界の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。

参考文献

私の証券昭和史（東洋経済新報社、1986年）
私の履歴書 経済人 13（日本経済新聞社、1981年）

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