火の鳥とワシリーサ姫

ロシアの豊かな口承文学の世界から生まれた物語の一つに、「火の鳥とワシリーサ姫」（ひのとりとワシリーサひめ）があります。この作品は、著名な民話収集家アレクサンドル・アファナーシェフが編纂した権威ある『ロシア民話集』に収められており、アールネ・トンプソン・ユーサー分類では531番に分類されています。主人公である若い猟師が、神秘的な火の鳥や美しいワシリーサ姫との出会いを通じて、思いがけない運命を辿る冒険譚です。

物語は、ある王に仕える若い猟師が森の中で見つけた、一際輝く火の鳥の羽根から始まります。猟師の忠実な愛馬は、その羽根が大きな災いをもたらすと警告しますが、彼はその輝きに抗えず、つい拾い上げて王に献上してしまいます。羽根の美しさに目を奪われた王は、猟師に今度はその火の鳥そのものを生きたまま連れてくるよう、無理な命令を下します。

困り果てた猟師は、再び賢い馬に助言を求めます。馬は、野原にトウモロコシを撒き、火の鳥を誘き出すという策を授けます。猟師がその言葉通りに実行すると、餌につられて飛んできた火の鳥を見事捕らえることに成功し、王の最初の難題をクリアします。

しかし、火の鳥を手に入れた王は、次なる難題を突きつけます。今度は、遠い地に住むという絶世の美女、ワシリーサ姫を連れてくるように命じたのです。猟師は再び馬に相談し、助けを求めます。馬は、十分な食料と黄金の屋根を持つ豪華なテントを用意するよう指示します。猟師は馬の言葉に従い、ワシリーサ姫が住む湖のほとりへ向かいます。湖畔に到着した猟師は、教えられた通りにテントを設営し、食料を広げてワシリーサ姫を待ちます。しばらくすると、湖から現れたワシリーサ姫は、豪華なテントと食事に興味を示し、猟師の誘いを受け入れます。そして、勧められるままにワインを口にしたワシリーサ姫は、やがて酔って眠り込んでしまいます。その隙に、猟師はワシリーサ姫を連れ去り、王のもとへと帰還します。

ワシリーサ姫は、無理やり連れてこられた状況に抵抗するかのように、結婚の条件として海の底に沈んだ特別な花嫁衣装を持ってくるよう王に要求します。王は再び猟師にその困難な任務を命じます。猟師はまたしても馬に相談し、知恵を借ります。海辺に到着した馬は、浜辺にいた一匹のカニを強く踏みつけ、仲間のカニたちに海の底から花嫁衣装を運んでくるよう脅迫します。恐れをなしたカニたちは協力し、見事に花嫁衣装を海の底から運び出し、猟師は姫の要求を満たすことができました。

それでもなお、ワシリーサ姫は最後の、そして最も過酷な試練を課します。それは、猟師が熱く煮えたぎる風呂の中に飛び込むというものでした。王は、この奇妙な要求も猟師に実行させようとします。絶体絶命の状況に追い込まれた猟師は、最後の望みをかけて馬に助けを求めます。馬は、猟師の体に神秘的な魔法をかけ、彼を危険から守護します。馬の力に守られた猟師が熱湯の風呂に身を浸すと、驚くべきことに彼は少しも火傷することなく、それどころか以前にも増して若々しく、たくましい、非常に魅力的な姿に変身しました。

この奇跡的な変化を目の当たりにした王は、自らも若返りを図ろうと、何の準備もなしに同じ熱湯の風呂に飛び込みます。しかし、馬の魔法に守られていない王は、その耐えがたい熱さにより瞬く間に命を落としてしまいます。

こうして、王を失った国で、不思議な運命と賢い馬の助けによって数々の難題を乗り越えた猟師が、新たな王として即位することになります。そして、彼はついにワシリーサ姫と結婚し、二人は結ばれるのでした。

この物語のように、ロシアの民話には不思議な力を持つ存在（この場合は馬）が登場し、主人公を導くパターンが多く見られます。類話としては、「イワン王子と火の鳥と灰色狼」や「勇士と若返りのりんごと命の水」などが知られており、これらの物語にも火の鳥や若返りのモチーフが登場します。外部情報としては、この物語の英訳版である「The Firebird and Princess Vasilisa」なども参照できます。

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