火星三部作

火星三部作

神林長平氏が手掛けたSF小説のシリーズであり、『あなたの魂に安らぎあれ』、『帝王の殻』、『膚の下』という三つの作品によって構成されています。

シリーズ概要

この三部作は、遠い未来の地球を舞台に幕を開けます。かつて月との間で繰り広げられた激しい戦争により、地球は壊滅的な荒廃に見舞われ、人類は種としての存続が危ぶまれる事態に直面します。故郷である地球が再生し、再び生命が暮らせる環境を取り戻すまでには、およそ250年という長い歳月が必要とされました。その間、人類は新たな居住地として、テラフォーミング（惑星地球化）によって生命を維持できる環境が整えられた火星への移住を選択します。

移住した人々は、地球の復興を待つため、冷凍睡眠（コールドスリープ）によって長い眠りにつきます。物語は、この未曽有の人類大移動と、火星での眠りの期間、そして四半世紀の時を経て故郷への帰還を果たすまでの壮大な歴史絵巻を描いています。

シリーズ名と舞台

「火星三部作」と銘打たれていますが、物語のすべてが火星を舞台に展開されるわけではありません。シリーズを構成する三作品は、それぞれ異なる時期と場所を主な舞台としています。

『膚の下』：人類が荒廃した地球からの旅立ちを決意し、火星への移住計画が始まり、地球再生に向けた最初の取り組みが描かれます。物語の時間軸としては、シリーズの始まりにあたります。
『帝王の殻』：テラフォーミングが施され、冷凍睡眠状態の人類が眠る火星が主な舞台となります。シリーズの時系列において中間に位置する作品です。
『あなたの魂に安らぎあれ』：長い眠りから覚めた人類が、復興を遂げた故郷・地球への帰還を目指す物語です。シリーズの時系列における終盤を描いています。

このように、三部作全体としては、荒廃した地球、火星、そして宇宙空間など、多岐にわたる舞台で人類の歴史が描かれています。

刊行順と時系列

この三部作は、物語の時系列に沿って発表されたわけではない点も特徴です。最初に刊行されたのは、時系列で最後に位置する『あなたの魂に安らぎあれ』で1983年でした。次いで、時系列で中間の『帝王の殻』が1990年に刊行され、最も古い時代を描く『膚の下』がシリーズの中で最後に、2004年に世に出ました。したがって、物語内の時間軸を追って読む場合は、『膚の下』→『帝王の殻』→『あなたの魂に安らぎあれ』の順となります。

なお、最後に刊行された『膚の下』の発表に伴い、それ以前に刊行されていた『あなたの魂に安らぎあれ』と『帝王の殻』には、一部修正が加えられた版が存在します。

既刊情報

各作品の主な刊行情報は以下の通りです。

『あなたの魂に安らぎあれ』
ハードカバー: 1983年、早川書房SFノヴェルズ (ISBN 4152004010)
文庫: 1986年、ハヤカワ文庫 (ISBN 4150302154)
『帝王の殻』
ハードカバー: 1990年、中央公論社 (ISBN 4120019020)
文庫: 1995年、ハヤカワ文庫 (ISBN 4150305242)
『膚の下』
ハードカバー: 2004年、早川書房 (ISBN 4152085614)
文庫: 2007年、ハヤカワ文庫（上下巻） (ISBN 4150308810 上巻, ISBN 4150308829 下巻)

神林長平氏らしい、科学的な考証と哲学的な問いかけが織り交ぜられた「火星三部作」は、人類の未来、故郷への想い、そして時間の概念といった普遍的なテーマを探求する作品群として、SFファンにとって読み応えのあるシリーズとなっています。

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