火星博士

火星博士：手塚治虫初期SF漫画の傑作

手塚治虫の代表作として知られる『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』とは一線を画す、初期作品『火星博士』。1947年、わずか20歳の手塚治虫によって描き下ろされたこの長編SF漫画は、その後の彼の創作活動に大きな影響を与えた作品と言えるでしょう。

本作は、前作『新宝島』に続く、手塚治虫による描き下ろし長編漫画の第2作目です。既に高い評価を得ていた『新宝島』で培った技術と、新たなSFの世界観を融合させた『火星博士』は、戦後の混乱期において、人々の心を掴む作品として注目を集めました。

物語は、ブートン博士と彼の甥であるケン一少年が乗船する汽船の遭難から始まります。突如として襲い掛かる暴風雨の中、二人は難破。しかし、そこへ現れた謎の飛行機にブートン博士だけが拉致され、ケン一は単身飛行機にしがみつき、追跡を開始します。

飛行機は、クラゲ島と呼ばれる謎の島へと向かいます。クラゲ島には、世界中に大暴風雨を引き起こす恐るべき発電機「一八一八一八号」を完成させようとするポッポ博士とその秘密基地がありました。実は、ケン一たちが遭難した暴風雨も、ポッポ博士の仕業だったのです。

ポッポ博士は、ブートン博士を脅迫して研究に協力させようとしますが、ケン一が博士を救出しようと奮闘します。一進一退の攻防が繰り広げられる中、ケン一はポッポ博士によって窮地に陥りますが、ポッポ博士の作った事務用ロボットであるピイ子に助けられます。しかし、ポッポ博士の執拗な攻撃により、ケン一は崖から転落し行方不明となり、ピイ子も破壊されてしまいます。ブートン博士は再びポッポ博士に捕らえられてしまいます。

驚愕の事実が明らかになります。ポッポ博士の正体は、地球征服を企む火星人の地球遠征隊長だったのです。クラゲ島は、巨大なロケットだったのです。火星人たちは、地球の知識を得るため、ブートン博士を火星へ拉致しようとしていたのです。

物語はクライマックスを迎えます。追い詰められたポッポ博士は、ロケットごと自爆しますが、ブートン博士とケン一は、修理されたピイ子によって救出されます。そして物語の最後は、夢オチで幕を閉じます。

本作には、手塚治虫の代表的なキャラクターたちが登場します。高名な科学者であるブートン博士、彼の甥で勇敢なケン一、そして地球征服を企む火星人ポッポ博士、そして彼によって作られた、ケン一たちを助ける女性型ロボットのピイ子です。ピイ子は、手塚治虫の初期作品『幽霊男』に登場する「毒蛇姫」を彷彿とさせるデザインで、後の作品『メトロポリス』に登場するミッチィを予感させるキャラクターとなっています。

『火星博士』は、単なるSF冒険譚にとどまりません。戦後の混乱期に描かれた本作は、未来への希望と不安、科学技術の進歩と倫理、侵略と平和といった普遍的なテーマを内包しています。また、手塚治虫の初期作品ながら、彼の後の作品に繋がる独自の表現方法や、キャラクター造形が見られる点でも貴重な作品です。

『火星博士』は、手塚治虫の漫画史における重要な位置を占める作品であり、彼の才能が爆発した、初期SF漫画の傑作として、今もなお多くの読者を魅了し続けています。その後の数々の傑作を生み出す礎となった本作は、現代においても読まれる価値のある作品と言えるでしょう。

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