灰色の虹

灰色の虹

『灰色の虹』は、貫井徳郎による日本の推理小説で、2009年から2010年にかけて『小説新潮』で連載されました。この作品は、冤罪によって人生を奪われた男の復讐劇を中心に、警察の捜査の問題点や司法のあり方を深く掘り下げた物語です。

あらすじ

物語は、刑事の山名省吾が、親しい検事の殺害事件をきっかけに、7年前の殺人事件に関わった人々が次々と不審死を遂げていることに気付くところから始まります。

7年前、運送会社に勤めていた江木雅史は、上司を殺害した容疑で逮捕されます。彼は暴力的な刑事の取り調べに屈し、身に覚えのない罪を自白してしまいます。状況証拠のみで起訴された雅史は、無実を訴えますが、検察官は「やっていないことを自白するはずがない」として起訴、弁護士も雅史の主張を信じず、情状酌量による減刑を求めるという、絶望的な状況に置かれます。結果、懲役6年の判決が下され、控訴も上告も棄却されます。服役を終えた雅史を待っていたのは、更なる絶望でした。彼は、自分から全てを奪った者たちへの復讐を決意します。

主要登場人物

江木 雅史（えぎ まさふみ）
本作の主人公。無口で陰気な性格で、左頬に大きな痣があります。運送会社の上司と口論した翌日に上司が死亡、アリバイがなかったことから逮捕されます。不当な取り調べで自白を強要され、無実を訴えるも受け入れられず、刑務所に送られます。出所後、復讐を誓います。

山名 省吾（やまな しょうご）
県警捜査一課の刑事。過去に恋人を暴漢に殺害された経験を持ちます。7年前の事件と現在の連続不審死との関連性を疑い、捜査を進めます。冷静かつ堅実な仕事ぶりで周囲からの信頼も厚いです。

7年前の事件関係者

市瀬 孝幸（いちせ たかゆき）
雅史の上司。運送会社社長の甥で、立場の弱い者に高圧的な態度を取る人物。雅史と口論した日に死亡します。

伊佐山 毅臣（いさやま たけおみ）
所轄の刑事。強引な手法で容疑者を追い詰め、自白を強要する。自分が怪しいと睨んだ人物を、有無を言わさず犯人に仕立て上げます。

谷沢 憲一（やざわ けんいち）
検察官。有能か無能かで人を判断し、状況証拠と自白だけで雅史を起訴します。愛妻家として知られています。

綾部 和久（あやべ かずひさ）
雅史の当番弁護士。雅史の無実を信じず、有罪を前提とした弁護活動を行います。後に、ヤクザの弁護で無罪を勝ち取ったことで、そのヤクザから様々な優待を受けるようになります。

雨宮 健（あめみや たけし）
事件当夜、雅史と同じ灰色のウィンドブレーカーを着た男を目撃したと証言します。

石嶺 亮三（いしみね りょうぞう）
7年前の事件の一審裁判長。時間に正確で、予定が狂うことを極端に嫌います。仕事ぶりから「マシーン」というあだ名が付けられています。

岸本 昭典（きしもと あきのり）
7年前の事件の一審裁判官。雅史が復讐を始める前に、高齢者のアクセル踏み間違え事故で死亡します。

田中 義治（たなか よしはる）
7年前の事件の一審裁判官。ジョギング中に交通事故で死亡します。

江木の関係者

河本 由梨恵（かわもと ゆりえ）
雅史の恋人。雅史の無実を信じていましたが、次第に面会が減っていきます。

江木 杏子（えぎ きょうこ）
雅史の姉。雅史の事件によって婚約が破談になります。地裁判決後、雅史に「死ぬまで許さない」と言い残し、家を出ます。

江木 聡子（えぎ さとこ）
雅史の母親。雅史の無実を信じ続け、夫が自殺した後も、ひたすら息子の帰りを待ち続けます。

その他の登場人物

秋成 良治（あきなり りょうじ）
妻を殺害したヤクザ。綾部の弁護によって正当防衛が認められ無罪となります。その後、綾部に恩義を感じ、便宜を図ります。

* 小西（こにし）
江木の復讐連続殺人事件で山名とコンビを組む刑事。伊佐山の捜査手法に疑問を持っています。

テレビドラマ

2012年5月19日にテレビ朝日系列でドラマ化されました。椎名桔平が山名省吾役、塚本高史が江木雅史役を演じ、視聴率15.6%を記録しました。

作品の特徴

この小説は、冤罪の恐ろしさ、警察の捜査における問題点、そして人間の復讐心を深く描いています。登場人物たちの心理描写も丁寧に描かれており、読者は物語に引き込まれていきます。また、物語が進むにつれて明らかになる真実や、二転三転する展開も見どころです。

『灰色の虹』は、単なる推理小説としてだけでなく、社会問題にも鋭く切り込んだ作品として、多くの読者に支持されています。

もう一度検索