炭素工具鋼

炭素工具鋼は、鉄を主成分とし、炭素（C）を0.55〜1.50%、ケイ素（Si）を0.10〜0.35%、マンガン（Mn）を0.10〜0.50%含む鋼材です。これらの元素の配合により、鋼材の硬度や強度などの特性が調整されます。

製造プロセスでは、まずキルド鋼を圧延、鍛造、または据込み鍛錬といった加工を行い、目的の形状に成形します。特に指定がない場合は、鋼板や鋼帯は圧延されたまま使用され、それ以外の形状のものは焼なまし処理が施されます。焼なましは、鋼材の組織を均一化し、加工性を向上させるための熱処理です。

炭素工具鋼の大きな特徴は、その加工性の良さにあります。比較的容易に切削や研磨などの加工を施すことができ、様々な形状に成形することが可能です。また、熱処理によって機械的性質、特に硬度を大きく変化させることができます。これにより、使用目的に応じた適切な強度や耐摩耗性を持たせることが可能です。

一方で、炭素工具鋼にはいくつかの欠点も存在します。最も大きな問題点は、焼き入れ性の悪さです。焼き入れとは、鋼材を高温に加熱した後、急冷することで硬度を向上させる熱処理ですが、炭素工具鋼では均一な焼き入れが難しく、焼き割れなどのトラブルが発生しやすいです。このため、より焼き入れ性の良い高合金工具鋼への移行が進み、炭素工具鋼の使用量は減少傾向にあります。

炭素工具鋼は、その特性から、刃物、金型、工具など、多様な用途に使用されます。しかし、高合金工具鋼の登場により、より高い性能が求められる用途では、その使用頻度が低下しています。それでも、その加工性の良さと比較的安価であることから、現在でも一定の需要があります。

日本産業規格（JIS）では、炭素工具鋼は「JIS G 4401 炭素工具鋼鋼材」として規格化されており、その識別には「SK」の記号が用いられます。具体的には、SK140、SK120、SK105、SK95、SK90、SK85、SK80、SK75、SK70、SK65、SK60といった種類があります。これらの数字は、鋼材に含まれる炭素の含有量を示しており、数字が大きいほど炭素含有量が多く、一般的に硬度が高くなります。

炭素工具鋼は、その優れた加工性と熱処理による特性変化の幅広さから、幅広い分野で利用されてきましたが、焼き入れ性の問題から高合金工具鋼にその座を譲りつつあります。しかしながら、その基本的な特性は、鋼材を理解する上で重要な位置を占めています。

関連語として、炭素鋼があります。炭素鋼とは、炭素を主な添加元素とする鋼材の総称で、炭素工具鋼もその一種です。炭素鋼は、含まれる炭素量によって、軟鋼、硬鋼などに分類され、それぞれ異なる特性を持ちます。炭素工具鋼は、比較的炭素含有量の多い硬鋼に分類されます。

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