焼きたてのホカホカ

『焼きたてのホカホカ』解説

概要

1971年に日本テレビ系列のテレビドラマとして放送された『焼きたてのホカホカ』は、当時の人気俳優、中山千夏を主演に迎え、東京・山の手にあるパン屋を舞台にしたホームドラマである。主人公であるパン屋の女性店員と、店を経営する一家の四兄弟が織りなす恋愛模様を軸に、家族の絆や店の仲間たちとの温かい人間関係が描かれた。

ストーリー

物語の舞台となるのは、活気あふれる東京・山の手の老舗パン屋「ヤマトベーカリー」。ここに働くことになった女性店員、海野幸子を、当時多方面で活躍し人気絶頂だった中山千夏が生き生きと演じた。幸子を取り巻くのは、「ヤマトベーカリー」を切り盛りする大和家の人々である。パン屋の女主人であり母親の大和瑞穂には、実力派女優の乙羽信子。そして、それぞれに個性の異なる四人の息子たち、長男の一郎を井川比佐志、次男の二郎を津坂匡章、三男の三郎を井上順之、四男の四郎を渡辺篤史がそれぞれ演じた。

明るく魅力的な幸子は、やがてこの大和家の四兄弟から慕われる存在となる。ドラマは、彼女と四人の兄弟たちが繰り広げる、時にコミカルで時に真剣な「恋のさや当て」を軸に展開していく。誰が幸子の心を射止めるのか、兄弟間のライバル意識や、それぞれの恋愛事情が物語の大きな見どころとなった。

しかし、このドラマが単なる恋愛劇に留まらないのは、大和家の家族ドラマと、店で働く人々の人間模様が丁寧に描かれている点にある。パン屋を切り盛りする母親・瑞穂と息子たちの間の、時にぶつかり合いながらも確かな深い愛情。そして、厳格でありながらも家族を温かく見守る祖父（東野英治郎）の存在が、ホームドラマとしての奥行きを与えている。さらに、家政婦の立花咲子（朝丘雪路）や店のベテラン店員たち、近所のクリーニング屋の息子である岡部信行（財津一郎）といった、個性豊かな周囲の人々との交流が物語に彩りを添えた。

当時の日本の家庭が抱える日常の喜びや悩み、そして人々の温かい暮らしぶりが、パン屋という身近でアットホームな空間を舞台に、ユーモアと人情味を交えて活き活きと描出された。中山千夏は、当時の若者像を反映したような、自立心と現代的な感性を持つ女性を魅力的に演じ、多くの視聴者の共感を呼んだ。また、大和家の四兄弟を演じた俳優たちも、それぞれの役柄を魅力的に演じ分け、ドラマの人気を支えた。

キャスト

このドラマを彩った主なキャストは以下の通りである。
海野幸子：中山千夏
大和瑞穂（母親）：乙羽信子
大和一郎（長男）：井川比佐志
大和二郎（次男）：津坂匡章
大和三郎（三男）：井上順之
大和四郎（四男）：渡辺篤史
大和家の祖父：東野英治郎
大和家の末娘：鶴間エリ
立花咲子：朝丘雪路（大和家の家政婦）
山野福子：丘みつ子
青森倫子：紹瑛
河本浩：和田浩治
マリ子：梶三和子（二郎の結婚相手）
梅子：村瀬幸子
岡部信行：財津一郎（クリーニング屋の息子）

その他、各話に様々なゲスト俳優が出演し、物語に深みを与えた。

スタッフ

脚本：佐々木守
演出：河野和平 他

脚本は、数々の名作テレビドラマや特撮作品を手がけたことでも知られる佐々木守が担当した。彼の描く、日常の中に潜む人間ドラマや、登場人物のリアルな心理描写が、本作の大きな魅力となっている。演出は河野和平らが担当し、アットホームな雰囲気と登場人物たちの感情の機微を丁寧に描き出した。

主題歌

「宇宙へとびこめ」
歌唱：中山千夏
作詞：中山千夏
作曲・編曲：中村八大

主演女優である中山千夏自身が歌唱し、作詞も手がけた主題歌は、中村八大による軽快で覚えやすいメロディに乗せて、ドラマの明るく前向きな世界観を見事に表現している。当時のテレビ主題歌としても広く親しまれた。

評価

全25話が放送された『焼きたてのホカホカ』は、1970年代初頭におけるホームドラマの一つの形を示した作品と言えるだろう。当時の人気タレントを主演に据えつつ、パン屋という身近な舞台を通して、家族の絆、兄弟間の競争、そして人々の温かい交流といった普遍的なテーマを描き出し、幅広い世代の視聴者に支持された。恋愛、仕事、そして人生の機微が、昭和の良き時代の人情や家族のあり方を背景に描かれ、見る者に温かい感動と共感を与えた作品である。

もう一度検索