燕石十種

江戸時代の風俗文化を映す鏡：『燕石十種』とその周辺

『燕石十種』は、江戸時代後期安政4年（1857年）から文久3年（1863年）にかけて編纂された、全3巻6輯から成る貴重な叢書です。当時、写[[本]]として流通していた風俗、人情、奇談といった様々な内容の稀覯本60編を集成したもので、江戸時代の社会を知る上で極めて重要な資料となっています。

編纂と出版

編纂者は達磨屋活東子（岩本佐七）で、書籍商を営んでいた養父である岩本蛙麿（達磨屋五一、花廼屋蛙麿）がその作業を支援しました。書名にある「燕石」は中国の古典に由来し、「玉のような美しい石」を意味しており、「十種」は「十襲」（大事に保管すること）という語呂合わせであるとされています。

初版は写[[本]]としてのみ存在していましたが、1907年より国書刊行会が活字版を刊行し、広く世に知られるようになりました。その後も、国書刊行会は『続燕石十種』、『新燕石十種』を編纂・刊行し、江戸時代の資料の保存と普及に貢献しました。現代においても、東出版、中央公論社などから復刻版が出版されており、電子書籍版も容易に入手できます。

多彩な内容：江戸の社会を多角的に探る

『燕石十種』に収録されている文献は、その内容が多岐に渡り、江戸時代の多様な側面を垣間見ることができます。例えば、遊女に関する文献や、猿楽（能楽の前身）の歴史を記した資料、戯作者の伝記、庶民の生活を描いた物語、そして江戸の地理や風俗を伝える記録など、実に多様なジャンルが網羅されています。これらの文献は、現代の研究者にとっても、江戸時代の社会や文化を理解する上で貴重な一次史料となっています。

具体的に、『燕石十種』には、高尾山の歴史を記した『高尾考』、遊女の世界を描いた『遊女考』、猿楽に関する『猿楽伝記』、『江戸真妙六十帖』、戯作者たちの伝記や作品集、庶民の生活を反映した物語、そして江戸の地理や風俗を描いた随筆など、多様な内容の文献が収録されています。

続編と新編：さらなる江戸探訪

『燕石十種』の成功を受けて、国書刊行会は『続燕石十種』（明治42年刊行）と『新燕石十種』（明治45年から大正2年にかけて刊行）を編纂しました。これらには、『燕石十種』と同様に、江戸時代の様々な分野を網羅した貴重な文献が収録されています。例えば、『続燕石十種』には、絵師の伝記や、戯作、歌舞伎に関する資料などが含まれており、『新燕石十種』には、庶民の生活や風俗を描いた作品、そして落語家に関する資料などが収録されています。

これらの続編と新編は、『燕石十種』を補完する形で、より多角的な視点から江戸時代の文化を理解する上で重要な役割を果たしています。

現代への継承

『燕石十種』とその続編、新編は、単なる古文書の集成にとどまらず、江戸時代の社会や文化を深く理解するための貴重な資料として、現代においても高い価値を保ち続けています。これらの文献を通して、私たちは江戸時代の庶民の生活、文化、そして社会構造をより深く知ることができ、歴史研究のみならず、小説や演劇などの創作活動にも影響を与え続けています。デジタル化も進み、現代の研究者や一般の人々にもアクセスしやすくなっていることは、江戸時代の歴史と文化を未来へと繋ぐ上で大きな意義を持つと言えるでしょう。

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