片山津大火

石川県加賀市の温泉地、片山津温泉で1969年（昭和44年）5月18日に発生した大規模な火災です。この火災は、温泉街に甚大な被害をもたらし、加賀市の歴史上、最大の焼失面積を記録しました。

発生と延焼の経緯

火災が発生したのは1969年 5月18日の午後1時10分頃のことです。出火元は、当時増築工事が進められていたホテル「白山荘」の敷地内、増築棟と既存棟をつなぐ部分の近くにある「富士の間」と呼ばれる廊下付近からでした。

出火当時、片山津温泉はフェーン現象の影響下にあり、南から風速8メートルという強い風が吹いていました。この強い南風が炎を激しく煽り、火の勢いは急速に増大しました。初期消火が難航した上、最初の通報が遅れたことも重なり、消防隊が現場に到着した時点では、すでに火災は大きく燃え広がっており、防御活動が容易に行えない状況でした。

炎は強風に乗って温泉街の建物を次々と焼き尽くし、その延焼は午後4時50分頃にようやく勢いを失い停止しました。しかし、火災の鎮圧には時間を要し、完全な鎮火が確認されたのは、出火から4日後の5月22日午前2時20分頃でした。

出火原因と被害拡大の要因

火元は特定されたものの、最終的な出火原因は現在も不明とされています。しかし、火災発生翌日の北國新聞は、内装工事中の漏電が原因である可能性を報じました。火災の第一発見者である大工は、建材を取りに2階と3階の踊り場へ行った際、階段の上り口付近から煙が出ているのを目撃し、その後2階の廊下の天井から黒煙が勢いよく吹き出しているのを確認したと証言しています。

片山津温泉は柴山潟に面しており、本来ならば消火用水に恵まれた立地のはずでした。にもかかわらず被害が広範囲に及んだ背景として、当時のレジャーブームに伴う旅館やホテルの度重なる増改築が指摘されています。これにより建物が極度に密集し、周辺の道路が狭くなった結果、豊富な湖の水を迅速に、かつ大量に火災現場へ運搬し使用することが困難になったことが、被害拡大の大きな要因となった可能性が、火災直後の新聞でも論じられました。

甚大な被害状況

この火災による被害は極めて甚大でした。焼失面積は33,846平方メートルに達し、これは加賀市が発足して以来、過去最大の焼失面積となりました。火災による全体の損害額は23億2200万円と算出されています。

建物の被害では、温泉街の中心にあった旅館7軒が全焼、1軒が半焼しました。また、商店街の民家25軒が全焼、6軒が半焼するなど、多数の一般家屋も犠牲となりました。この火災では、合計16名の負傷者が出ています。

復旧への取り組みと地域への影響

火災発生後、加賀市は直ちに自衛隊へ災害派遣を要請しました。出動した陸上自衛隊第14普通科連隊は、罹災者の救助活動や、焼け跡の整地作業にあたりました。また、小松税務署は、被災した方々に対して国税に関する救済措置を実施しました。

火災発生前日の5月17日夜は、ほとんどの温泉旅館が満室で約6000人の宿泊客がいましたが、18日の昼前にはその大半が帰宅していました。しかし、火災発生時刻に近い午後1時過ぎにも、全焼した旅館を含め約30人の宿泊客が到着していましたが、迅速な避難誘導により全員が無事でした。

延焼が停止した後の午後4時から5時頃にかけても、全国から多くの観光客が片山津温泉を目指して到着しました。バスや自家用車で来た客は、温泉駅街から約1キロメートル手前の三差路で停車させられ、そこから各旅館まで歩いて向かいました。被災した旅館に予約を入れていた客に対しては、片山津温泉旅館組合が臨時の案内所を設置し、代替となる宿泊施設の手配を行いました。その結果、約100人が山中温泉へ、約200人が山代温泉へと振り分けられ、宿泊することができました。

火災翌日の5月19日は月曜日でしたが、この日も約2千人の宿泊客が片山津温泉を訪れています。幸いにも、収容能力の高い大規模ホテルが火災を免れたため、温泉旅館協同組合は焼失した旅館の予約客を他の施設へ振り分ける対応を取りました。多くの宿泊キャンセルも発生しましたが、温泉地全体の宿泊業における損害は、最終的に2割程度に抑えられたとされています。

火災発生から一夜明けた19日午後には、空気中の粉塵はほとんど収まりました。類焼を免れた周辺の商店では、消火活動で水浸しになった商品を天日で乾かす作業に追われる光景が見られました。

片山津大火は、温泉街の過密な構造や天候条件が重なり、短時間で広範囲に甚大な被害をもたらした災害として、加賀市の災害史に大きな記録を残しています。

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