片岡我童 (13代目)

十三代目 片岡我童：上方歌舞伎を彩った名女形

十三代目片岡我童（かたおか がどう）は、明治43年（1910年）7月6日、大阪で十二代目片岡仁左衛門の長男として生まれました。本名は片岡一（かたおかはじめ）。幼少期から歌舞伎の世界に身を置き、大正6年（1917年）に初舞台を踏みます。その後、片岡ひとしを経て、昭和9年（1934年）には五代目片岡芦燕を襲名。華麗な経歴の始まりでした。

昭和10年（1935年）には東宝劇団へ加入。順風満帆なキャリアを歩むかに思えましたが、昭和21年（1946年）3月、父である十二代目片岡仁左衛門が下男に殺害されるという悲劇に見舞われます（片岡仁左衛門一家殺害事件）。この事件は、我童の人生に大きな影を落とす出来事となりました。

昭和30年（1955年）、父の後継ぎという意味を込めて十三代目片岡我童を襲名します。本来なら五代目襲名のはずでしたが、父の意志を継ぐという強い思いが込められていました。襲名後は、真女形として活躍。その艶やかな容姿と、古風な上方歌舞伎の色濃い芸風で、観客を魅了しました。

昭和33年（1958年）には、はとこにあたる十三代目片岡仁左衛門らと共に「七人の会」を結成。当時、不振の極みにあった関西歌舞伎の復興に尽力しました。彼らの努力は、上方歌舞伎の再興に大きく貢献することとなります。

我童の芸は、晩年まで衰えることなく、濃艶な美しさで観客を惹きつけました。『廓文章』「吉田屋」の夕霧・おきさや、『恋飛脚大和往来』「封印切」のおえん、『心中天網島・河庄』のお庄、『仮名手本忠臣蔵・六段目』の一文字屋お才など、色街の女主人役は特に有名です。これらの役柄は、我童の芸の幅広さと、時代を超えた魅力を物語っています。

平成4年（1992年）、京都南座顔見世での『河庄』のお庄が最後の舞台となりました。そして、平成5年（1993年）12月31日、正月の飾りの花を買って帰る途中、路上で急逝。83歳でした。花束を抱えたままの最期は、我童の華麗で儚い人生を象徴するかのようでした。

我童の芸風は、上方歌舞伎独特の雰囲気を濃厚に漂わせるものでした。その洗練された演技は、多くの歌舞伎ファンを魅了し続けました。また、私生活では、芦燕時代、九代目市川高麗蔵（のちの十一代目市川團十郎）と愛人関係にあったと伝えられています。別れた後も、来世で一緒になるためと、生涯に渡り茶を断ち、白湯と水以外の飲食物を口にしなかったという逸話も残されています。

弟には二代目市村吉五郎、六代目片岡芦燕が、甥には十七代目市村家橘がいます。十三代目片岡我童は、その華麗な芸と、波瀾万丈の人生で、歌舞伎史に輝く大きな足跡を残しました。死後、十四代目片岡仁左衛門を追贈されたことは、その功績の大きさを示しています。歴代仁左衛門の中で唯一の真女形であるという事実は、彼の稀有な存在感を際立たせています。

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