牛バベシア

牛バベシア（Babesia bovis）についての詳細

牛バベシア（Babesia bovis）は、寄生性の単細胞真核生物で、ピロプラズマの一種です。特に、オウシマダニ（Rhipicephalus microplus）などのマダニがこの生物の媒介を行い、ウシを中心に溶血性貧血や血色素尿、神経症状など深刻な病状を引き起こすことが知られています。これらの症状は、重篤なピロプラズマ症であるアルゼンチナ病に関連しています。

生態と感染過程

牛バベシアの感染は、幼ダニがウシやスイギュウ、アフリカスイギュウの血液を吸った際に始まります。このとき、原虫がダニの体内に侵入し幼ダニが感染源となることが、牛バベシアの特徴です。他のバベシア属の原虫では、通常成ダニや若ダニが感染源となりますが、牛バベシアにおいては幼ダニがその役割を果たします。

一旦侵入した原虫は、ウシの赤血球に感染し、その中で増殖を繰り返しながら赤血球を破壊します。続いて成ダニが吸血する際に、血液中の原虫を排除し、経卵巣感染を通じて次世代の幼ダニに感染を広めます。このようにして、寄生はさらなる感染へとつながるのです。

人への感染はごく稀であるものの、特に脾臓摘出手術を受けた患者において感染がみられるケースがあります。

分布と感染状況

牛バベシアは、主に中南米、東南アジア、アフリカ、およびオーストラリアの東部に広く分布しており、熱帯・亜熱帯地域において特に顕著です。アメリカ合衆国では1943年に牛バベシアの撲滅が達成され、現在ではメキシコとの国境地域でのみ確認されています。また、日本においては、過去に沖縄県での感染例があったものの、1993年以降は報告がない状態です。

ゲノムの解読

牛バベシアの全ゲノムは、2007年に解読が完了し、その長さは820万塩基対に達することが報告されました。この情報は、牛バベシアの生物学的理解を深めるために重要な役割を果たしています。

分類と研究の経緯

伝統的には、ピロプラズマ科は大型のバベシア属と小型のタイレリア属に分類されてきましたが、これは生物の系統に必ずしも一致しないことが分子系統解析によって明らかになっています。ただし、牛バベシアはバベシア属の代表的な種であり、たとえ将来的にこの属が再分類されたとしても、牛バベシアの位置付けが変わることはありません。

牛バベシアの歴史

1888年、ルーマニアの微生物学者ビクトル・バベシュがドナウ川沿岸で流行していたウシの血液中に牛バベシアを発見しました。この発見は、牛バベシアの研究が始まる重要な契機となりました。現在に至るまで、牛バベシアは農業や酪農業に対して脅威をもたらす存在であるため、農業界におけるその対策が必要とされています。

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